【賃貸借契約の解除とは】解約との違いや通知書が届いた際の注意点

賃貸借契約の「解除」と「解約」は法的に明確に区別される概念で、借主にとって全く異なる意味を持ちます。
解除とは、貸主または借主の一方が重大な契約違反をした場合に、もう一方が契約を当初から無かったものとして扱うことを指します。
一方、解約とは当事者間の合意に基づいて将来に向かって契約を終了させることを意味するのです。
貸主が契約を解除するには「正当事由」が必要であり、家賃の長期滞納や信頼関係の破壊などが具体的な理由として挙げられるでしょう。
解除通知書が届いた借主は、まず通知の正当性を確認し、改善可能な問題については速やかに対応することが重要になります。

監修者
1982年にサレジオ学院高校を卒業後、中央大学法学部法律学科に進学し1987年に卒業。法曹界を志し、様々な社会経験を経た後、2016年に行政書士試験に合格。2017年4月に「綜合法務事務所君悦」を開業。法律知識と実務経験を活かし、国際業務を中心に寄り添ったサービスを提供している。
日本行政書士会連合会 神奈川県行政書士会所属
登録番号 第17090472号
賃貸借契約の解除とは?
賃貸借契約における「解除」は、契約を当初から存在しなかったものとして扱う法的な手続きです。
一般的に「解約」と混同されがちですが、両者には決定的な違いがあるでしょう。
解除と解約の根本的な違い
解除は、一方当事者の重大な契約違反を理由として、もう一方が一方的に契約の効力を否定することです。
解約は、当事者双方の合意または契約で定められた期間の満了により、将来に向かって契約を終了させることになります。
解除の場合、契約は遡って無効となるため、借主は損害賠償責任を負う可能性があります。

- 解除:契約違反により遡って契約を無効にする
- 解除には正当事由と適正な手続きが必要
- 解除された借主は損害賠償責任を負う場合がある
- 解約:合意により将来に向かって契約を終了する
国土交通省ガイドラインによる解除の位置づけ
国土交通省が発行する原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)では、賃貸借契約の終了について詳細な指針が示されています。
解除は単なる契約終了とは異なり、借主の債務不履行や契約違反に基づく強制的な契約終了手続きであることが明記されているでしょう。
貸主が一方的に解除を主張するだけでは効力を持たず、法的に有効な解除には厳格な要件を満たす必要があります。

解除と解約の違いを理解することは、借主の権利を守る上で極めて重要です。解除には厳格な要件があることを知っておきましょう。
解除が認められる要件と理由とは?
賃貸借契約の解除が法的に有効となるためには、明確な要件を満たす必要があります。
貸主が契約解除を主張する場合、必ず「正当事由」の存在を証明しなければなりません。
正当事由の判断基準
正当事由の判断には、5つの重要な要素が総合的に考慮されます。


- 当事者双方の建物使用の必要性
- 賃貸借の経緯(契約期間や更新回数など)
- 建物の利用状況(実際の使用方法)
- 建物の現況(老朽化や修繕の必要性)
- 立ち退き料の支払い申出の有無
これらの要素を総合的に判断して、解除に正当性があるかどうかが決定されるでしょう。
具体的な解除事由
実際の解除において、最も多く見られる事由は家賃の長期滞納と信頼関係の破壊です。
家賃滞納については、一般的に3ヶ月以上の継続的な滞納が解除の目安とされています。
ただし、1回の滞納では解除理由とならず、継続的かつ悪質な滞納が必要でしょう。
解除事由 | 具体例 | 判断基準 |
---|---|---|
家賃滞納 | 3ヶ月以上の継続滞納 | 支払い能力と滞納の悪質性 |
信頼関係破壊 | 無断ペット飼育、近隣トラブル | 契約違反の重大性と改善意思 |
用法違反 | 住居以外の用途での使用 | 契約目的との乖離度 |
信頼関係の破壊には、契約で禁止されているペットの無断飼育、近隣住民への迷惑行為、建物の無断改造などが含まれます。
重要なのは、単発的な問題ではなく、継続的で改善の見込みがない状況である必要があることです。



正当事由は単一の要因で判断されるのではなく、複数の要素を総合的に考慮して決定されます。借主側にも対抗手段があることを理解しておくことが大切です。
解除通知が届いた場合の適切な対応方法とは?
賃貸契約解除通知書が届いた場合、慌てずに適切な対応を取ることが重要になります。
まずは通知の内容を詳細に確認し、解除理由の正当性を検証する必要があるでしょう。
解除通知の法的手続きの流れ
貸主が行う解除手続きには、法的に定められた段階的なプロセスがあります。


- 電話や面談による直接交渉
- 内容証明郵便による解除通知書の送付
- 不動産明渡請求訴訟の提起
- 勝訴判決による強制執行
借主としては、各段階で適切な対応を取ることで解除を回避できる可能性があります。
借主が取るべき具体的対応策
解除通知を受け取った際の対応は、解除理由によって異なるアプローチが必要です。
家賃滞納が理由の場合、まず滞納分の支払いと今後の支払い計画を明示することが最優先でしょう。
契約違反が理由の場合は、違反行為の即座の停止と改善策の具体的な提示が求められます。


- 解除理由の正当性を法的観点から検証する
- 改善可能な問題は速やかに対処する
- 貸主との協議により合意解除を目指す
- 法的手続きに移行する場合は専門家に相談する
重要なのは、感情的にならず冷静に対応し、書面による記録を残すことです。
合意による解決が困難な場合は、法的手続きに移行する前に認定司法書士や弁護士への相談を検討するべきでしょう。



解除通知が届いても即座に退去する必要はありません。適切な対応により解除を回避できるケースも多いため、諦めずに対処することが重要です。
解除を回避するための予防策と交渉方法
契約解除に至る前に、借主が取り組める予防策と効果的な交渉方法があります。
日頃からの適切な契約管理と貸主との良好な関係構築が、トラブル回避の基本となるでしょう。
立ち退き料による解決
貸主の都合による退去要求の場合、立ち退き料の支払いが一般的な解決方法になります。
立ち退き料の目安は家賃の半年分から一年分程度とされており、具体的な金額は個別の事情により決定されます。
借主としては、引越し費用や新居の敷金礼金、仮住まいの費用などを考慮した適正な補償を求めることができるでしょう。
定期借家契約の特例
定期借家契約の場合、通常の賃貸借契約とは異なる終了手続きが適用されます。
貸主は期間満了の1年前から6ヶ月前までに更新拒絶の通知をすることで、契約を終了させることが可能です。
借主は定期借家契約の場合でも、通知期間や手続きの適正性について確認する権利があります。
契約形態 | 更新拒絶通知期間 | 借主の対抗手段 |
---|---|---|
普通借家契約 | 6ヶ月前 | 正当事由の争い |
定期借家契約 | 1年前~6ヶ月前 | 手続きの適正性確認 |
専門家への相談の重要性
契約解除に関する法的手続きは複雑であり、借主が単独で対応するには限界があります。
特に訴訟に発展する可能性がある場合は、認定司法書士や弁護士への早期相談が不可欠でしょう。
費用負担は原則として借主にあるとされていますが、実際の回収は困難なため、可能な限り合意による解決を目指すことが推奨されます。



予防が最も重要ですが、問題が生じた場合は早期の専門家相談により、より良い解決策を見つけることができます。一人で抱え込まず、適切なサポートを受けることをお勧めします。
まとめ
賃貸借契約の解除は、解約とは根本的に異なる法的概念であり、借主の権利と義務に大きな影響を与えます。
解除には正当事由が必要であり、家賃滞納や信頼関係の破壊などの具体的理由が存在する必要があるでしょう。
解除通知を受け取った場合でも、適切な対応により解除を回避できる可能性があります。
国土交通省の原状回復ガイドラインに基づいた正確な知識と適正な手続きの理解が、借主の権利保護において極めて重要になります。
法的手続きが発生する実務については、認定司法書士や弁護士への相談を強く推奨いたします。
- 解除と解約は法的に異なる概念で、解除は契約を遡って無効にする
- 解除には正当事由が必要で、5つの要素が総合的に判断される
- 家賃3ヶ月以上の滞納や信頼関係破壊が主な解除理由
- 解除通知を受けても適切な対応により回避可能
- 法的手続きには認定司法書士や弁護士への相談が必要

