
クリーニング特約でも通常損耗の費用は借主負担にならない?東京地裁の判例を解説
退去時に「クリーニング特約があるから費用は全額借主負担」と言われ、その請求額に疑問を感じた経験はないでしょうか。
本記事で紹介するのは、東京地方裁判所が平成25年5月27日に下した判決(RETIO No.94-102)です。
この裁判では、賃貸人が室内を清掃したとしても通常の損耗にとどまる限りは、クリーニング特約に基づいてその費用を賃借人に負担させることはできないかが争われました。
裁判所は通常損耗の範囲内の清掃費用はクリーニング特約の対象にならないと判断し、賃借人の負担を否定しました。

監修者
1982年にサレジオ学院高校を卒業後、中央大学法学部法律学科に進学し1987年に卒業。法曹界を志し、様々な社会経験を経た後、2016年に行政書士試験に合格。2017年4月に「綜合法務事務所君悦」を開業。法律知識と実務経験を活かし、国際業務を中心に寄り添ったサービスを提供している。
日本行政書士会連合会 神奈川県行政書士会所属
登録番号 第17090472号
東京地裁が示したクリーニング特約の適用範囲と通常損耗の判断基準

- クリーニング特約付きの契約内容と退去時に費用が請求された経緯
- 裁判所は通常損耗の清掃費用をクリーニング特約の対象外と判断した
- クロスの耐用年数6年と残存価値の計算方法を把握して退去費用を確認する

「クリーニング特約があるから退去時の清掃費用は借主負担」と言われたことはありませんか。
この東京地裁の判決は、通常の使用で生じた汚れの清掃は特約があっても借主に負担させられないとした重要な先例です。
クリーニング特約付きの契約内容と退去時に費用が請求された経緯

まず、この裁判の背景となった賃貸借契約の内容を整理します。
賃借人Xは平成22年9月に賃貸人Yから建物を月額賃料6万5,000円、敷金13万円で賃借しました。
重要事項説明書には「退去時のクリーニング費用は賃借人負担」とするクリーニング特約が記載されていました。
Xが退去した後、Yは室内のハウスクリーニングを実施し、その費用を敷金から控除しました。
Xは室内を通常どおり使用しており、清掃が必要になった原因は通常の損耗にすぎないとして敷金の返還を求めました。
民法第621条は通常の使用で生じた損耗と経年変化を原状回復義務の対象から除外しており、クリーニング特約がこの規定を覆すことができるかが裁判の争点となりました。
ゲンクリーニング特約があっても、通常損耗の清掃まで借主負担になるとは限りません。
民法第621条:賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に回復する義務を負う。
裁判所は通常損耗の清掃費用をクリーニング特約の対象外と判断した


次に、東京地裁がクリーニング特約の適用範囲についてどのように判断したかを整理します。
裁判所はまず、クリーニング特約が有効となるためには、特約の内容が具体的かつ明確であり、賃借人がその負担内容を十分に理解して合意していることが必要であると判示しました。
そのうえで、賃貸人が清掃を実施したとしても、その清掃対象が通常の使用による損耗にとどまる場合は、クリーニング特約に基づいてその費用を賃借人に負担させることはできないと判断しました。
通常の生活で生じるホコリや水垢程度の汚れは貸主が次の入居者のために行う営業費用であり、クリーニング特約の対象とはならないというのが裁判所の判断です。
賃借人の故意や過失による汚損がある場合に限り、クリーニング特約に基づく費用請求が認められる余地があるとされました。
民法第606条第1項は賃貸人に修繕義務を課しており、通常損耗の清掃は賃貸人の義務に含まれると解釈されています。



通常の使用で生じた汚れの清掃は、次の入居者のための営業費用として貸主が負担すべきとされています。
民法第606条第1項:賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない。
クロスの耐用年数6年と残存価値の計算方法を把握して退去費用を確認する



クロス・カーペット・クッションフロア等の耐用年数は6年です。要は入居期間が6年以上であれば、原状回復費用は発生しない(0円)ということになります。
さらに、クリーニング費用だけでなくクロスの張替えや設備の修繕費用が請求された場合は、国土交通省のガイドラインに基づく耐用年数を確認することが重要です。
ガイドラインではクロス(壁紙)の耐用年数は6年と定められており、入居3年目で残存価値は約50%、6年経過後は1円になります。
この判決の事案のように賃料6万5,000円の物件で数年間居住した場合、クロスの残存価値は大幅に低下しているため、全額を借主に請求することは不当です。
クリーニング費用と別にクロスの張替え費用を請求された場合は、入居年数に応じた残存価値を計算して適正な負担額を確認することが大切です。



入居年数ごとの残存価値を計算ツールで確認し、請求額が適正かどうかを判断しましょう。
民法第400条:債権の目的が特定物の引渡しであるときは、債務者は、その引渡しをするまで、契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らして定まる善良な管理者の注意をもって、その物を保存しなければならない。
この判決から学ぶクリーニング特約の限界と退去費用への対処法


- クリーニング特約が法的に有効とされるための条件を正確に理解する
- 最高裁判例でも通常損耗の原状回復には借主の明確な合意が必要とされている
- クリーニング費用を不当に請求されたときの具体的な対処法


クリーニング特約が通常損耗に適用できないと判断された理由を理解したうえで、退去時にどう対処すればよいかを知っておくことが重要です。
ここでは、特約の法的な有効条件と最高裁判例の考え方、そして不当な請求への具体的な対処法を解説します。
クリーニング特約が法的に有効とされるための条件を正確に理解する


まず、クリーニング特約が法的に有効とされるための条件を整理します。
この東京地裁の判決では、クリーニング特約が有効に機能するためには、費用の具体的な金額や範囲が明示されていること、そして賃借人がその内容を十分に理解したうえで合意していることが必要とされました。
単に「退去時のクリーニング費用は賃借人負担」と記載されているだけでは、通常損耗の清掃まで借主に負担させる根拠にはなりません。
クリーニング特約が通常損耗の清掃にまで及ぶためには、その旨が具体的に明記され、賃借人が通常損耗分も負担することを認識して合意していることが不可欠です。
消費者契約法第10条は消費者の利益を一方的に害する条項を無効としており、不明確なクリーニング特約はこの規定により無効とされる可能性があります。





クリーニング特約の具体的な金額と範囲が明記されているかを契約前に確認しておきましょう。
民法第90条:公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。
最高裁判例でも通常損耗の原状回復には借主の明確な合意が必要とされている


加えて、最高裁判所も通常損耗の原状回復義務について同様の判断を示しています。
最高裁は平成17年12月16日の判決で、通常損耗の原状回復義務を借主に負わせるためには「契約書に具体的に明記されているか」または「口頭で説明し借主が明確に認識・合意していること」が必要と判示しました。
この最高裁判決の基準に照らせば、「クリーニング費用は借主負担」という一般的な記載だけでは、通常損耗の清掃まで借主に負わせることはできません。
最高裁の判断基準と東京地裁の判決を合わせて理解すれば、通常損耗のクリーニング費用を請求された場合に根拠を持って減額交渉ができます。



最高裁の判断基準を知っていれば、管理会社との交渉で大きな武器になります。
民法第415条第1項:債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
クリーニング費用を不当に請求されたときの具体的な対処法


最後に、通常損耗のクリーニング費用を不当に請求された場合の具体的な対処法を解説します。
まず、退去費用の明細書を書面で取得し、クリーニング費用がどの箇所のどのような汚損に対して請求されているかを確認してください。
請求内容が通常の使用で生じた汚れ(ホコリ、軽微な水垢、日常的な汚れ)に対するものであれば、この判決を根拠に減額を求めることができます。
交渉で解決しない場合は、消費者センターへの相談や、60万円以下であれば少額訴訟の利用を検討しましょう。


不当に控除された敷金は不当利得として返還を求められるため、請求内容に疑問がある場合は明細を精査して根拠を確認することが重要です。



退去費用の明細書をもらい、各費用が通常損耗に該当しないか一つずつ確認しましょう。
民法第703条:法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。
よくある質問
まとめ
この判決は、クリーニング特約があっても通常の使用で生じた損耗の清掃費用を賃借人に負担させることはできないことを明確に示した先例です。
退去時にクリーニング費用を請求された場合は、その清掃対象が通常損耗なのか特別損耗なのかを確認し、不当な請求には根拠を持って対処することが重要です。
この記事のポイントを振り返ります。
- 通常損耗の清掃費用はクリーニング特約があっても賃借人に負担させられない
- クリーニング特約が有効となるには費用の金額と範囲の明示が必要
- 最高裁も通常損耗の原状回復義務を借主に負わせるには明確な合意が必要と判示
- クロスの耐用年数は6年で入居年数に応じて残存価値が低下する
- 不当なクリーニング費用には明細の精査と消費者センターへの相談で対処できる


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