この事例の概要
本件は、賃借人が庭の管理不十分により植栽が荒廃したとして、賃貸人が修復費用の支払いを求めた事案です。裁判所は、賃借人が庭の管理について一定の善管注意義務を負うとし、特に草取りと松枯れに関する義務違反を認め、修復費用の一部を賃借人に負担させる判断を示しました。
行政書士 松村 元
監修者
自己紹介文要約:
1982年にサレジオ学院高校を卒業後、中央大学法学部法律学科に進学し1987年に卒業。法曹界を志し、様々な社会経験を経た後、2016年に行政書士試験に合格。2017年4月に「綜合法務事務所君悦」を開業。法律知識と実務経験を活かし、国際業務を中心に寄り添ったサービスを提供している。
日本行政書士会連合会 神奈川県行政書士会所属
登録番号 第17090472号
目次
事例の背景
賃貸人Xと賃借人Yは、平成16年8月8日に庭付き一戸建て住宅(敷地90坪、建物109.3㎡)について、賃貸期間2年間、賃料12万円、敷金12万円、礼金12万円の条件で賃貸借契約を締結しました。
契約は平成19年6月11日に終了し、賃借人Yが物件を明け渡しました。
賃貸人Xは、賃借人Yの管理不十分により庭の植栽が荒廃し、特に門かぶりの松が枯れたとして、修復費用48万8350円(内訳:高木剪定作業等費用20万5800円、雑草・除草及び刈取り処分費用3万2550円、松の植替え費用25万円)から敷金12万円を控除した残額36万8350円の支払いを求めて提訴しました。
- 高木剪定作業等費用:20万5800円
- 雑草・除草及び刈取り処分費用:3万2550円
- 枯れた松と同程度の松の植替え費用:25万円
裁判所の判断
裁判所は以下の点を判断しました。
裁判所は、庭付き一戸建て物件の賃貸借契約において、庭及びその植栽は建物と一体として賃貸借の目的物に含まれると解し、賃借人は信義則上、一定の善管注意義務を負うと判断しました。
剪定作業については、具体的な合意がなく、仲介業者から「植栽は刈らないように」との説明を受けていたこと、また剪定には専門的な知識が必要であることから、賃借人の義務違反は認められないとしました。
一方、草取りに関しては、入居前と退去後の庭の状態を比較し、退去後は草が生い茂っていたことから、定期的な草取りが適切に行われていなかったとして、賃借人の善管注意義務違反を認めました。
さらに、松枯れの原因は不明であるものの、賃借人は松の変化に気付き、賃貸人に報告する義務があったとし、これを怠った点で義務違反を認めました。
これらの判断を踏まえ、賃料が近隣相場に比べて安かったことを考慮し、賃借人Yに修復費用の一部として6万円の負担を命じました。
まとめ
結論
- 賃貸人からの請求金額:488,350円
- 裁判所の判決:60,000円
- 預け入れた保証金:120,000円
- 保証金の返還額:60,000円
本判決から得られる実務的な示唆と教訓は以下の通りです。
- 賃借人の善管注意義務の範囲
- 契約時の具体的な合意の重要性
- 費用負担の公平性
賃借人は、庭付き物件の場合、庭の管理について一定の善管注意義務を負うことが明確であり、特に草取りや植栽の状態変化の報告が重要です。
また、剪定作業など専門的な知識を要する管理については、契約時に具体的な合意を記載しておくことで紛争を予防できます。
さらに、賃料が相場より低い場合、修復費用の負担割合が調整される可能性があるため、賃貸借契約において費用負担に関する条項を明確に定めておくことが重要です。
参照元:原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)