[事例21]賃貸人は敷金の精算は管理会社に一任されると主張したが敷金から控除されるべき費用はないとされた事例
本件は、賃借人Xが賃貸人Yに対して敷金の返還を求めた事案です。賃貸人Yは、賃借人Xが退去時に必要な手続きを履行しなかったことを理由に、敷金全額を修繕費用に充当しました。しかし、裁判所は、賃貸人Yが控除すべき費用を具体的に主張できなかったため、敷金の一部返還を認めました。

監修者
サレジオ学院高等学校を昭和57年に卒業後、法曹界への志を抱き、中央大学法学部法律学科へと進学。同大学では法律の専門知識を着実に積み重ね、昭和62年に卒業。
その後、さまざまな社会経験を経て、より専門的な形で法務サービスを提供したいという思いから、平成28年に行政書士試験に挑戦し、合格。この資格取得を機に、平成29年4月、依頼者の皆様に寄り添った丁寧なサービスを提供すべく「綜合法務事務所君悦」を開業いたしました。
長年培った法律の知識と実務経験を活かし、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えできるよう、日々研鑽を重ねております。
日本行政書士会連合会 神奈川県行政書士会所属
登録番号 第17090472号
事例の背景
賃借人Xは、平成10年8月に賃貸人Yと賃貸借契約を締結し、敷金24万6000円を支払いました。
平成11年8月27日、双方は契約を合意解除し、賃借人Xは物件を明け渡しました。
しかし、賃貸人Yは、賃借人Xが退去時に必要な検査やルームチェックに立ち会わなかったことを理由に、敷金全額を修繕費用に充当しました。
これに対し、賃借人Xは敷金全額の返還を求めて提訴しました。
- 修繕一式
裁判所の判断
裁判所は以下の点を判断しました。
賃借人の負担項目
- 日割賃料・共益費7万5774円
賃貸人の負担項目
- 修繕費用(具体的な立証がなかったため、控除不可)
裁判所は、賃貸人Yが賃借人Xが物件を明け渡した日(平成11年8月27日)までの日割賃料・共益費7万5774円を敷金から控除することを認めました。
一方、賃貸人Yは修繕費用について具体的な主張がなく、金額や項目が不明確であったため、修繕費用の控除は認められませんでした。
その結果、裁判所は敷金24万6000円から日割賃料・共益費を控除した17万226円の返還を賃借人Xに認め、賃貸人Yが控除すべき費用を具体的に立証できなかったことを理由に、敷金の一部返還を命じました。
まとめ
本判決から得られる実務的な示唆は以下の通りです。
- 賃貸人の立証責任
- 賃借人の義務履行
- 管理会社への転嫁の限界
賃貸人は、敷金から控除する費用について具体的な金額と項目を明示する必要があり、控除の根拠が不明確な場合、裁判所は控除を認めない可能性があります。
一方、賃借人は退去時に必要な手続き(検査やルームチェックへの立ち会い等)を履行することが重要ですが、未履行であっても、賃貸人が控除する費用を具体的に立証できなければ、敷金の返還を請求できる可能性があります。
また、賃貸人が管理会社に修繕費用の清算を一任する場合でも、その費用の合理性と必要性を立証する責任は賃貸人にあり、管理会社の判断だけでは不十分です。