
特優賃住宅の退去時の負担区分特約は有効?大阪地裁の判断基準を解説
特定優良賃貸住宅(特優賃)を退去するとき、「負担区分表に基づいて補修費用を請求された」という経験をお持ちの方もいるのではないでしょうか。
本記事で紹介するのは、大阪地方裁判所が平成15年7月16日に下した判決(RETIO No.57-144)です。
この裁判では、住宅供給公社が一括借上げをしている特優賃住宅において、退去時の補修費用の負担区分についての特約が違法かどうかが争われました。
裁判所は負担区分表に基づく特約は公序良俗に反するものではなく違法とはいえないと判断し、賃借人の主張を棄却しました。

監修者
1982年にサレジオ学院高校を卒業後、中央大学法学部法律学科に進学し1987年に卒業。法曹界を志し、様々な社会経験を経た後、2016年に行政書士試験に合格。2017年4月に「綜合法務事務所君悦」を開業。法律知識と実務経験を活かし、国際業務を中心に寄り添ったサービスを提供している。
日本行政書士会連合会 神奈川県行政書士会所属
登録番号 第17090472号
大阪地裁が示した特優賃住宅の負担区分特約の有効性と通常損耗の解釈

- 特優賃住宅の賃貸借契約で退去時に30万円超の補修費用を追加請求された経緯
- 裁判所は負担区分表の特約を通常損耗を含まないと解釈し有効と判断した
- クロスの耐用年数6年と残存価値の計算方法を把握して退去費用を確認する

「負担区分表に通常損耗が含まれているのではないか」と疑問に感じたことはありませんか。
この大阪地裁の判決は、特優賃住宅の負担区分表に基づく特約は通常損耗を含まないと解釈し有効と判断した重要な先例です。
特優賃住宅の賃貸借契約で退去時に30万円超の補修費用を追加請求された経緯

まず、この裁判の背景となった賃貸借契約の内容を整理します。
賃借人Xは平成10年2月に住宅供給公社Yとの間で、特定優良賃貸住宅を月額賃料11万円、敷金35万円で賃借しました。
特優賃住宅は「特定優良賃貸住宅の供給の促進に関する法律」に基づく制度で、中堅所得者向けに公社が一括借上げして供給する賃貸住宅です。
契約には負担区分表が付されており、退去時の壁クロス、畳、床ビニールシート等の補修費用の負担割合が定められていました。
Yは退去時に負担区分表に基づきクロスや畳等の補修費用として30万円余をXに追加請求し、Xは通常損耗分まで借主に負担させるのは違法であると主張して費用負担を拒否しました。
民法第621条は通常の使用で生じた損耗を原状回復義務の対象から除外しているため、負担区分表に通常損耗が含まれるかどうかが最大の争点となりました。
ゲン負担区分表の「汚損」「破損」が通常損耗を含むかどうかが裁判の争点でした。
民法第621条:賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に回復する義務を負う。
裁判所は負担区分表の特約を通常損耗を含まないと解釈し有効と判断した


次に、大阪地裁が負担区分表の特約をどのように解釈したかを整理します。
裁判所はまず、負担区分表に記載された「汚損」「破損」等の文言は、通常の使用による損耗ではなく賃借人の故意または過失によって生じた損耗を指すと解釈しました。
つまり、負担区分表自体は通常損耗の補修費用まで賃借人に負担させる内容ではなく、民法の原則に沿った合理的な取り決めであると認定されたのです。
裁判所は負担区分表の特約が特優賃法の施行規則に基づくものであり公序良俗に反しないと判断し、賃借人の違法主張を退けました。
また、Yが日本不動産研究所の調査による補修費用を構成要素として実費算出よりも低額の賃料を設定していたことも、負担区分表が賃借人に不当な負担を課すものではないとの判断を裏付けています。



負担区分表に記載された「汚損」「破損」が通常損耗を含まないとされた点がこの判決のポイントです。
民法第606条第1項:賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない。
クロスの耐用年数6年と残存価値の計算方法を把握して退去費用を確認する



クロス・カーペット・クッションフロア等の耐用年数は6年です。要は入居期間が6年以上であれば、原状回復費用は発生しない(0円)ということになります。
さらに、特優賃住宅であっても退去時の補修費用はガイドラインに基づく耐用年数を考慮して算定されるべきです。
クロス(壁紙)の耐用年数は6年と定められており、入居から3年経過すると残存価値は約50%、6年以上経過すると1円になります。
賃借人の故意や過失による損耗であっても、耐用年数を超えた部分の費用を借主に全額負担させることは認められていません。
特優賃住宅の退去時に補修費用を請求された場合は、負担区分表の内容と耐用年数に基づく残存価値の両方を確認して適正な金額かどうかを判断することが重要です。



耐用年数に基づく残存価値を計算ツールで確認すれば、補修費用が適正かどうかを判断できます。
民法第400条:債権の目的が特定物の引渡しであるときは、債務者は、その引渡しをするまで、契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らして定まる善良な管理者の注意をもって、その物を保存しなければならない。
この判決から学ぶ特優賃住宅の退去費用と負担区分への対処法


- 負担区分表の法的位置づけと通常損耗の費用が含まれない理由を理解する
- 特優賃住宅と通常の賃貸住宅で原状回復の考え方がどう異なるか
- 退去時の補修費用が不当に高額だと感じたときの具体的な対処法


負担区分表が有効とされた理由を理解すれば、退去時にどの費用が借主負担になるのかを正確に判断できます。
ここでは、負担区分表の法的位置づけと特優賃住宅の特殊性、そして退去費用が高額だと感じた場合の対処法を解説します。
負担区分表の法的位置づけと通常損耗の費用が含まれない理由を理解する


まず、負担区分表の法的位置づけを整理します。
この判決で裁判所は、負担区分表に記載された「汚損」「破損」等の文言は通常損耗を含まず、賃借人の故意や過失による損耗のみを対象としていると解釈しました。
通常の使用で生じた損耗については、賃借人が原状回復義務を負わないという民法の原則がそのまま適用されることが確認されたのです。
負担区分表があっても通常損耗の費用は貸主が負担するのが原則であり、借主に請求できるのは故意や過失による損耗の補修費用に限られます。





負担区分表の各項目が通常損耗に該当しないかどうかを退去時に確認することが大切です。
民法第90条:公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。
特優賃住宅と通常の賃貸住宅で原状回復の考え方がどう異なるか


加えて、特優賃住宅における原状回復の考え方が通常の賃貸住宅とどう異なるのかを理解しておく必要があります。
特優賃住宅は特定優良賃貸住宅供給促進法や住宅金融公庫法施行規則等に基づいて運営されており、負担区分表は法令の趣旨に沿って作成されています。
この判決では、特優賃住宅の賃料が日本不動産研究所の調査に基づき実費算出よりも低額に設定されていることから、負担区分表が賃借人に不当な負担を課すものではないと認定されました。
特優賃住宅は通常の賃貸住宅と異なり法令に基づく制度であるため、負担区分表の有効性が比較的認められやすい傾向にあることを理解しておくことが重要です。



特優賃住宅は制度の趣旨を理解したうえで契約内容を確認することが大切です。
民法第1条第2項:権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
退去時の補修費用が不当に高額だと感じたときの具体的な対処法


最後に、特優賃住宅の退去時に補修費用が不当に高額だと感じた場合の具体的な対処法を解説します。
まず、請求された補修費用の明細を取得し、各項目が通常損耗に該当するのか賃借人の過失による損耗なのかを一つずつ確認してください。
通常の使用で生じたクロスの変色や畳の日焼けなどが含まれている場合は、国土交通省のガイドラインを根拠に減額を求めることができます。
交渉で解決しない場合は、消費者センターへの相談や少額訴訟の利用も選択肢となります。


特優賃住宅であっても通常損耗の費用を借主に負担させることはできないため、明細を精査して不当な項目がないか確認することが大切です。



補修費用の明細で通常損耗に該当する項目があれば、ガイドラインを根拠に減額交渉をしましょう。
民法第703条:法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。
よくある質問
まとめ
この判決は、特定優良賃貸住宅の負担区分表に基づく補修費用の特約は通常損耗を含まないと解釈され、公序良俗に反しないとして有効とされた先例です。
特優賃住宅の退去時には、負担区分表の各項目が通常損耗に該当しないかを確認し、耐用年数に基づく残存価値を考慮して適正な費用かどうかを判断することが重要です。
この記事のポイントを振り返ります。
- 特優賃住宅の負担区分表の「汚損」「破損」は通常損耗を含まないと解釈された
- 負担区分表に基づく特約は特優賃法の施行規則に沿ったもので有効とされた
- 通常損耗の補修費用は原則として貸主が負担する
- クロスの耐用年数は6年で入居年数に応じて残存価値が低下する
- 補修費用の明細を精査し不当な項目がないか確認することが重要


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