
賃貸の庭の原状回復費用は48万円から6万円に減額
庭付き賃貸住宅を退去する際に「庭の植栽が荒れている」として高額な原状回復費用を請求されるケースがあります。
本記事で紹介するのは、国土交通省のガイドラインに収録された事例32の庭の管理義務をめぐるトラブルです(ガイドライン事例32)。
この事例では、庭付き一戸建て住宅の植栽が入居時より荒れたとして、貸主が48万8350円の修復費用を借主に請求しました。
東京簡易裁判所は草取りの不履行のみ善管注意義務違反と認め、借主の負担額を6万円に大幅減額する判断を下しました。

監修者
1982年にサレジオ学院高校を卒業後、中央大学法学部法律学科に進学し1987年に卒業。法曹界を志し、様々な社会経験を経た後、2016年に行政書士試験に合格。2017年4月に「綜合法務事務所君悦」を開業。法律知識と実務経験を活かし、国際業務を中心に寄り添ったサービスを提供している。
日本行政書士会連合会 神奈川県行政書士会所属
登録番号 第17090472号
東京簡裁が示した庭の管理義務と善管注意義務違反の範囲

- 庭付き一戸建て住宅の賃貸借契約と植栽をめぐるトラブルの経緯
- 裁判所は草取りの不履行のみ善管注意義務違反と認め借主負担を6万円に減額した
- 庭の植栽には経過年数の考え方が退去費用の減額交渉に役立つ

庭付き賃貸住宅に住んでいて「庭の手入れはどこまでやればいいのか」と不安を感じたことはありませんか。
この東京簡裁の判決は、庭の管理義務の範囲と善管注意義務違反の判断基準を具体的に示した重要な事例です。
庭付き一戸建て住宅の賃貸借契約と植栽をめぐるトラブルの経緯

まず、この事例の背景を確認します。
借主は平成16年8月から敷地90坪・建物109.3平方メートルの庭付き一戸建て住宅を月額12万円で賃借していました。
賃貸借契約書には庭の管理に関する具体的な約定はなく、仲介業者から「植栽は刈らないように」との口頭説明があったのみです。
約3年後の平成19年6月に退去した際、貸主は植栽の修復費用として48万8350円の高額な原状回復請求を行いました。
契約書に庭の管理義務が明記されていなくても、善管注意義務は法律上発生することを知っておきましょう。
民法第400条:債権の目的が特定物の引渡しであるときは、債務者は、その引渡しをするまで、契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らして定まる善良な管理者の注意をもって、その物を保存しなければならない。
裁判所は草取りの不履行のみ善管注意義務違反と認め借主負担を6万円に減額した


次に、東京簡易裁判所が各項目についてどのように判断したかを整理します。
高木の剪定作業については専門的な知識や技術が必要であるため、借主の善管注意義務の範囲には含まれないと判断されました。
一方、草取りについては特別な知識がなくても対応できる日常的な管理行為であるとして、不履行が善管注意義務違反に該当する行為と認定されました。
また松の枯れについては変化に気づいた時点で貸主に報告する義務があったとされ、賃料水準が月額12万円と比較的安い物件であることも考慮されて借主の負担額は6万円に減額されました。
専門的な剪定作業は借主の義務には含まれないという基準を覚えておくと退去時に役立ちます。
民法第621条:賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に回復する義務を負う。
庭の植栽には経過年数の考え方が退去費用の減額交渉に役立つ
さらに、庭の原状回復費用を考えるうえで、国土交通省のガイドラインが定める経過年数の考え方を理解しておくことが大切です。
ガイドラインでは設備や内装材ごとに耐用年数が設定されていますが、庭の植栽については経過年数を考慮しない「修繕費の部分補修」として扱われるのが一般的です。
この事例では請求額48万8350円に対して裁判所が認めた借主負担は6万円であり、約88%の大幅減額という結論になりました。
退去費用の計算ツールで経過年数ごとの借主負担額を確認できます。
民法第1条第2項:権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
この事例から学ぶ庭の管理義務と退去費用への対処法


- 善管注意義務の範囲は日常的な管理に限定され専門作業は借主の義務に含まれない
- 庭の管理義務に関する他の裁判例でも日常管理に限定する傾向が確認されている
- 庭の原状回復費用を不当に請求されたときは書面交渉から段階的に対処できる


事例の要点を理解したところで、実際に庭の原状回復費用を請求された場合にどう対処すればよいか気になる方も多いでしょう。
ここでは善管注意義務の法的根拠と類似の裁判例、そして不当な請求を受けたときの具体的な交渉手順を解説します。
善管注意義務の範囲は日常的な管理に限定され専門作業は借主の義務に含まれない


まず、この判決が善管注意義務の範囲をどのように限定したかを整理します。
裁判所は庭も「建物と一体として賃貸借の目的物に含まれる」と認定したうえで、管理義務の範囲を日常的な作業と専門的な作業に明確に分けて判断しました。
具体的には、草取りのように特別な知識を必要としない日常作業は借主の義務に含まれますが、高木の剪定のように専門技術を要する作業は義務の対象外とされました。
この判断基準は賃貸物件の善管注意義務の一般的な解釈とも整合しており、退去時の交渉で強い根拠となります。


善管注意義務の範囲を正しく理解していれば、不当な請求に対して冷静に反論できます。
民法第601条:賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずる。
庭の管理義務に関する他の裁判例でも日常管理に限定する傾向が確認されている


加えて、庭の管理義務に関しては他の裁判例でも同様の判断が示されています。
最高裁判所は平成17年12月16日の判決で、通常損耗の原状回復義務を借主に負わせるためには契約書への具体的な明記または口頭での明確な合意が必要と判示しました。
この事例でも契約書に庭の管理義務が具体的に定められていなかったことが、借主の負担額を大幅に減額する根拠の一つとなっています。
複数の裁判例において日常管理を超える義務の免除傾向が確認されており、退去時の交渉では有力な論拠になります。
庭の原状回復費用で疑問を感じたら、まず契約書の記載内容を確認してみてください。
複数の裁判例が同じ方向を示していることは、退去時の交渉で大きな根拠になります。
民法第415条第1項:債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
庭の原状回復費用を不当に請求されたときは書面交渉から段階的に対処できる


最後に、庭の原状回復費用が不当に高いと感じたときの具体的な対処法を解説します。
まずは管理会社に「善管注意義務の範囲を超える作業は借主の負担にならない」旨を書面で伝えることが第一歩です。
書面での交渉で解決しない場合は、国民生活センターや消費者センターへの無料相談や、請求額が60万円以下であれば簡易裁判所の少額訴訟制度の利用も検討しましょう。


すでに支払ってしまった過払い分については不当利得としての返還請求の権利が民法で認められています。
退去費用の請求に少しでも疑問があれば、専門の相談窓口に早めに連絡することをおすすめします。
段階的に交渉を進めれば、庭の原状回復費用を大幅に減額できるケースは少なくありません。
民法第703条:法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。
よくある質問
まとめ
この事例は、庭の管理義務が日常的な草取りに限定された善管注意義務であることを明確に示した判例です。
退去時に庭の原状回復費用を請求された場合は、まず「善管注意義務の範囲内か」「契約書に具体的な約定があるか」を確認することが重要です。
この記事のポイントを振り返ります。
- 東京簡裁は請求額48万8350円に対し借主負担を6万円のみとする判断を下した
- 日常的な草取りは借主の善管注意義務に含まれるが専門的な剪定は対象外となる
- 庭の植栽に異変があれば速やかに貸主に報告する義務がある
- 契約書に庭の管理義務が具体的に明記されていなければ借主の義務は日常管理に限定される
- 不当な請求には書面での交渉や消費者センターへの相談で対処できる


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