
貸主都合で鍵返還が遅れた場合の建物明渡日の判断基準を示した判例を解説
退去の準備が終わっているのに、貸主の都合で鍵の返還が遅れてしまい、その期間の日割り賃料まで請求されたことはありませんか。
本記事で紹介するのは、東京地方裁判所が平成25年8月30日に下した判決(RETIO 95-082)です。
この裁判では、賃借人が年末に退去準備を完了したにもかかわらず、貸主の都合で鍵返還が年明けにずれ込み、原状回復工事完了日までの日割り賃料と工事費用を保証金から控除された点が争われました。
裁判所は建物明渡日を鍵返還日ではなく退去準備が整った日と判断し、賃借人の請求をすべて認容しました。

監修者
1982年にサレジオ学院高校を卒業後、中央大学法学部法律学科に進学し1987年に卒業。法曹界を志し、様々な社会経験を経た後、2016年に行政書士試験に合格。2017年4月に「綜合法務事務所君悦」を開業。法律知識と実務経験を活かし、国際業務を中心に寄り添ったサービスを提供している。
日本行政書士会連合会 神奈川県行政書士会所属
登録番号 第17090472号
東京地裁が建物明渡日は返還準備完了日と判断した根拠

- 賃借人が年末に退去準備を完了したが鍵返還は貸主都合で遅延した経緯
- 裁判所は明渡日を鍵返還日ではなく退去準備完了日と判断した
- クロスの耐用年数6年と残存価値の計算方法を把握しておくことが重要になる

退去準備が終わったのに鍵が返せず、余分な賃料を取られるのは納得いかないという方も多いでしょう。
ここでは、鍵返還が遅れた事情と裁判所が建物明渡日をどう判断したか、そして耐用年数の計算を確認します。
賃借人が年末に退去準備を完了したが鍵返還は貸主都合で遅延した経緯

まず、この裁判の背景として、賃借人は賃貸借契約に基づきビルの貸室を使用していましたが、契約終了に伴い年末までに引越しと退去準備をすべて完了しました。
しかし、鍵の返還は貸主の年末年始の都合により年明けの1月にずれ込みました。
賃貸人は原状回復工事完了日の1月末近くまでの日割り賃料を保証金から控除するとともに、原状回復工事費用も差し引いた金額のみを返還しました。
これに対し賃借人は、日割り賃料と工事費用の控除は不当であるとして、控除前の保証金全額の返還を求めて提訴しました。
ゲン鍵返還が遅れた理由が貸主側の都合であることがポイントになっています。
民法第601条:賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずる。
裁判所は明渡日を鍵返還日ではなく退去準備完了日と判断した


次に、裁判所の判断内容を具体的に確認します。
裁判所は、賃借人が年末に明渡しの準備を完了しており、鍵返還が遅れたのは賃貸人の都合によるものであることを認定しました。
建物明渡日は鍵返還日ではなく返還準備が整った年末の時点と判断され、年明け以降の日割り賃料の控除は認められませんでした。
さらに、賃貸人は次のテナントに原状回復工事をせずに物件を引き渡しており、実際に工事を行っていないにもかかわらず工事費用を控除することは不当とされました。



退去準備が完了した時点が建物明渡日になるという判断は重要なポイントです。
民法第622条の2第1項:賃貸人は、敷金を受け取っている場合において、賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたときは、賃借人に対し、その受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務の額を控除した残額を返還しなければならない。
クロスの耐用年数6年と残存価値の計算方法を把握しておくことが重要になる



クロス・カーペット・クッションフロア等の耐用年数は6年です。要は入居期間が6年以上であれば、原状回復費用は発生しない(0円)ということになります。
さらに、この判決では原状回復工事費用の控除も否定されましたが、仮に工事費用が正当に請求される場合でも、国土交通省のガイドラインに基づいた耐用年数の計算が重要になります。
クロス(壁紙)の耐用年数は6年と定められており、入居3年目で残存価値は約50%、6年目以降はほぼ1円となるため、長期入居ほど負担額は減少します。
実際に工事を行っていない場合は原状回復費用を請求できないのが原則であり、この判決はその原則を明確に示しています。



原状回復工事を実施していない場合は費用の控除自体が認められない可能性があります。
民法第1条第2項:権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
この判決から学ぶ建物明渡日と保証金返還への対処法


- 原状回復工事をしなかった賃貸人は工事費用を控除できない
- 建物明渡日の判断基準に関する他の裁判例と比較する
- 退去時に鍵返還が遅れた場合の具体的な対処法を知る


原状回復工事をしていないのに費用を差し引かれたら不当ではないかと感じる方もいるでしょう。
ここでは、工事未実施の場合の費用控除の問題点と類似判例、そして鍵返還が遅れた場合の具体的な対処法を解説します。
原状回復工事をしなかった賃貸人は工事費用を控除できない


まず、この判決で最も注目すべき点は、賃貸人が実際に原状回復工事を行わなかったにもかかわらず工事費用を保証金から控除したことです。
裁判所は、賃貸人が次のテナントに原状回復工事をせずに物件を引き渡した事実を重視し、工事を行っていない以上は費用を控除することはできないと判断しました。
原状回復費用は実際に工事を実施した場合にのみ控除が認められるのが原則であり、工事未実施のまま費用を差し引くことは不当利得に該当する可能性があります。
保証金や敷金の精算書を受け取った際は、工事の実施状況と費用の内訳を必ず確認しましょう。





精算書の内訳と実際の工事内容が一致しているか確認することが重要です。
民法第621条:賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に回復する義務を負う。
建物明渡日の判断基準に関する他の裁判例と比較する


加えて、建物明渡日の判断基準は他の裁判例でも同様の傾向が見られます。
一般に、建物の明渡しとは賃借人が物件内の動産類をすべて搬出し、鍵を返還して賃貸人が物件の占有を回復した時点を指すと解されています。
鍵返還の遅延が賃貸人の都合による場合は明渡し完了と評価されることがあり、この判決もその考え方に沿ったものです。
賃貸人の都合で鍵を受け取れない場合に賃借人に不利益を負わせることは、信義則に反するとの考え方が裁判所の判断の基礎にあります。



鍵返還が遅れた理由がどちら側の都合かによって、法的な判断が大きく変わります。
民法第703条:法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。
退去時に鍵返還が遅れた場合の具体的な対処法を知る


最後に、退去時に鍵返還が遅れた場合の具体的な対処法を確認します。
退去準備が完了した日を証明するために、引越し完了後の室内の写真を日付入りで撮影し、管理会社に退去完了の連絡をメールや書面で送っておきましょう。
退去準備完了の日時を客観的に証明できる記録を残しておくことで、鍵返還が遅れた場合でも明渡日の立証が容易になります。
不当に日割り賃料や工事費用を控除された場合は、消費者センターへの相談や少額訴訟の利用も有効な手段です。





退去完了の記録をしっかり残しておけば、不当な請求への交渉で有利に進められます。
民法第415条第1項:債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
よくある質問
まとめ
この判決は、貸主都合で鍵返還が遅れた場合の建物明渡日の判断基準を明確にした事例です。
退去時に不当な日割り賃料や工事費用を控除された場合は、退去準備完了の記録をもとに交渉することが有効です。
この記事のポイントを振り返ります。
- 貸主都合で鍵返還が遅れた場合は退去準備完了日が建物明渡日になる
- 原状回復工事を実施していなければ費用を敷金から控除できない
- 賃借人の請求はすべて認容され保証金の全額返還が命じられた
- 退去準備完了日を写真やメールで記録しておくことが重要になる
- 精算書を受け取ったら工事の実施状況と費用の根拠を確認する


- 敷金ドットコムは、情報提供を目的としたサイトです。行政書士が記事の監修および執筆を行っておりますが、根本的な問題やトラブルの解決を目的としたものではありません。トラブルの解決については、弁護士または認定司法書士にご相談ください。




_1772722245-300x158.jpg)






とは?賃貸退去時の借主の責任範囲を解説_1772722420-300x169.jpg)