
敷金精算で経年変化を考慮した原状回復費用と清掃費用の負担が示された事例|東京簡裁平成14年判決
退去時の敷金精算で「原状回復費用」と「清掃費用」がそれぞれいくら差し引かれるのか気になったことはありませんか。
本記事で紹介するのは、RETIO No.55に掲載された東京簡易裁判所が平成14年7月9日に下した判決です。
この裁判では、賃貸借契約終了時の敷金精算において、借主の過失による原状回復費用の算定方法と、退去時の不十分な清掃に起因する清掃業者費用の負担が争点となりました。
裁判所は原状回復費用については経年変化を考慮し残存価額に基づいて算定し、清掃業者による清掃費用は全額借主負担と判断しました。

監修者
1982年にサレジオ学院高校を卒業後、中央大学法学部法律学科に進学し1987年に卒業。法曹界を志し、様々な社会経験を経た後、2016年に行政書士試験に合格。2017年4月に「綜合法務事務所君悦」を開業。法律知識と実務経験を活かし、国際業務を中心に寄り添ったサービスを提供している。
日本行政書士会連合会 神奈川県行政書士会所属
登録番号 第17090472号
東京簡裁が示した敷金精算の原状回復費用と清掃費用の判断

- 退去時の敷金精算で原状回復費用と清掃費用が争点となった経緯
- 裁判所は経年変化を考慮し残存価額で原状回復費用を算定した
- クロスの耐用年数6年と残存価値の計算方法で負担額を確認できる

敷金の精算で「清掃費用は全額負担」と言われたとき、どこまでが借主の責任なのか疑問に思う方は多いのではないでしょうか。
この東京簡裁の判決は、原状回復費用は経年変化を考慮して減額する一方、不十分な清掃による業者費用は全額借主負担とした明確な基準を示した判例です。
退去時の敷金精算で原状回復費用と清掃費用が争点となった経緯

まず、この裁判の背景として、借主(原告)は東京都内の賃貸物件に入居し、退去時に貸主から敷金精算書を受け取りました。
貸主は借主の過失による壁のクロス損傷やフローリングの傷などの原状回復費用に加え、退去時の清掃が不十分であったことを理由に清掃業者による清掃費用を全額差し引いた金額で敷金を精算しました。
借主はこの精算額に納得できず、原状回復費用に経年変化が考慮されていないこと、清掃費用が過大であることを主張して裁判を起こしました。
敷金は退去時に賃借人の債務を控除した残額を返還する制度であり、その控除額の算定方法が本件の争点となりました。
ゲン敷金精算で納得できない場合は、原状回復費用の算定方法を確認することが大切です。
民法第622条の2第1項:賃貸人は、敷金を受け取っている場合において、賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき、又は賃借人が適法に賃借権を譲り渡したときは、賃借人に対し、その受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務の額を控除した残額を返還しなければならない。
裁判所は経年変化を考慮し残存価額で原状回復費用を算定した


次に、裁判所の原状回復費用に対する判断を確認します。
東京簡裁は、借主の過失による壁のクロス損傷やフローリングの傷について、設備の新品価格をそのまま借主に請求するのではなく、経年変化を考慮した残存価額に基づいて原状回復費用を算定すべきと判断しました。
たとえばクロスの耐用年数は6年であり、入居3年目に損傷した場合の残存価値は約50%になるため、新品の張替え費用の半額程度が借主の負担上限となります。
一方で、退去時の清掃が不十分であったことに起因する清掃業者の費用については、借主の善管注意義務違反として全額が借主負担とされました。



経年変化を考慮しない請求は適正ではないため、精算明細の計算方法を必ず確認しましょう。
民法第621条:賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に回復する義務を負う。
クロスの耐用年数6年と残存価値の計算方法で負担額を確認できる



クロス・カーペット・クッションフロア等の耐用年数は6年です。要は入居期間が6年以上であれば、原状回復費用は発生しない(0円)ということになります。
さらに、この事例で重要となるクロス(壁紙)の耐用年数について、国土交通省のガイドラインでは6年と定められています。
定額法による計算では、入居1年目の残存価値は約83%、3年目で約50%、6年目以降はほぼ1円となります。
借主の過失による損傷であっても経年変化を考慮した残存価額を超える請求は認められません。



計算ツールで入居年数に応じた残存価値を確認し、精算額が適正かどうかを判断しましょう。
民法第601条:賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずる。
この判決から学ぶ退去時の原状回復と清掃費用の適正な負担


- 原状回復費用は経年変化を考慮して減額されることが法的原則となる
- 退去時の清掃が不十分な場合は清掃業者の費用が全額借主負担になる
- 敷金精算で不当な請求をされたときは段階的に交渉を進められる


原状回復費用の経年変化による減額は理解できたものの、清掃費用はどのように判断されるのか疑問をお持ちの方もいるでしょう。
ここでは、経年変化の法的根拠と清掃費用の判断基準、そして不当な敷金精算への具体的な対処法を解説します。
原状回復費用は経年変化を考慮して減額されることが法的原則となる


まず、この判決が示した経年変化を考慮する原則について解説します。
国土交通省のガイドラインでも、原状回復費用は設備の耐用年数に基づき残存価値を算定したうえで借主の負担額を決めるべきとされています。
経年変化を考慮せずに新品の修繕費用を全額請求するのは法的に適正ではありません。
借主が善良な管理者としての注意義務を果たしていれば、通常の使用で生じた損耗は貸主の負担となり、借主の過失部分も残存価額の範囲内に限定されます。





ガイドラインの負担割合表を確認すれば、入居年数ごとの適正な負担額がわかります。
民法第400条:債権の目的が特定物の引渡しであるときは、債務者は、その引渡しをするまで、契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らして定まる善良な管理者の注意をもって、その物を保存しなければならない。
退去時の清掃が不十分な場合は清掃業者の費用が全額借主負担になる


加えて、退去時の清掃費用について裁判所がどのように判断したかを確認します。
この判決では、借主が退去時に十分な清掃を行わなかったことが認定され、それに起因して発生した清掃業者の費用は全額が借主の負担とされました。
清掃費用は経年変化の対象とはならず不十分な清掃が原因であれば全額が借主負担となります。
退去時に室内のキッチン・浴室・トイレなどを丁寧に清掃しておくことで、専門業者による清掃費用の発生を防ぐことができます。



退去前にできる範囲で丁寧に清掃しておくことが、清掃費用を減らす最も確実な方法です。
民法第415条第1項:債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
敷金精算で不当な請求をされたときは段階的に交渉を進められる


最後に、敷金精算で不当な請求を受けたときの具体的な対処法を解説します。
まずは「原状回復費用に経年変化が反映されているか」「清掃費用の内訳は適正か」を精算明細書で確認し、不明点があれば管理会社に書面で問い合わせましょう。
経年変化を考慮しない請求は不当利得として返還を求めることができます。
交渉で解決しない場合は、消費者センターへの無料相談や、60万円以下であれば簡易裁判所の少額訴訟制度も活用できます。





精算明細を確認してから交渉することで、不当な請求額を大幅に減額できる場合があります。
民法第533条:双務契約の当事者の一方は、相手方がその債務の履行を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができる。
よくある質問
まとめ
この判決は、敷金精算で原状回復費用は経年変化を考慮し清掃費用は不十分な清掃が原因なら全額借主負担とされた重要な先例です。
退去時の敷金精算に疑問を感じたら、まず「経年変化が反映されているか」「清掃費用の発生原因は何か」を確認することが大切です。
この記事のポイントを振り返ります。
- 借主の過失による原状回復費用は経年変化を考慮した残存価額で算定される
- 退去時の不十分な清掃による清掃業者費用は全額が借主負担となる
- クロスの耐用年数は6年で入居期間が長いほど借主の負担額は減少する
- 経年変化を考慮しない請求は法的に適正ではない
- 精算明細を確認し段階的に交渉すれば不当な請求を減額できる


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