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敷引特約と更新料特約が消費者契約法10条のもとでも有効とされた事例の判例解説(大阪高裁 H23.12.13)
退去時に「敷引金として30万円を差し引く」「更新料として賃料2か月分を支払う」と契約書に書かれていた場合、その特約は必ず無効になるのでしょうか。
本記事で紹介するのは、大阪高等裁判所が平成23年12月13日に下した判決(RETIO 89-092)です。
この裁判では、賃料の約5.17か月分にあたる敷引特約と、2年の契約期間に対し賃料2か月分の更新料特約が消費者契約法10条により無効かどうかが争われました。
大阪高裁は最高裁判決の基準を適用し、敷引特約および更新料特約のいずれも有効と判断しています。

監修者
1982年にサレジオ学院高校を卒業後、中央大学法学部法律学科に進学し1987年に卒業。法曹界を志し、様々な社会経験を経た後、2016年に行政書士試験に合格。2017年4月に「綜合法務事務所君悦」を開業。法律知識と実務経験を活かし、国際業務を中心に寄り添ったサービスを提供している。
日本行政書士会連合会 神奈川県行政書士会所属
登録番号 第17090472号
敷引特約と更新料特約の有効性が争われた裁判の経緯と判断

- 保証金35万円のうち敷引金30万円と更新料2か月分を含む賃貸借契約の内容
- 大阪高裁は最高裁基準を適用し敷引特約と更新料特約をいずれも有効と判断した
- クロスの耐用年数6年と残存価値の計算方法を確認しておくことが重要になる

敷引特約や更新料特約は消費者契約法10条で無効になるケースが注目されがちですが、有効とされる場合もあることをご存じでしょうか。
この大阪高裁の判決は、最高裁が示した基準を実際に適用し、敷引金30万円と更新料11万6000円がいずれも有効と判断した事例です。
保証金35万円と更新料2か月分を含む賃貸借契約の内容

まず、この裁判の対象となった賃貸借契約の内容を確認します。
賃借人Xは平成18年4月1日に賃貸人Yとの間で、期間2年、月額賃料5万8000円、共益費5000円、保証金35万円(うち敷引金30万円)の賃貸借契約を締結しました。
契約には2年ごとの更新時に賃料2か月分の11万6000円を更新料として支払う特約も付されていました。
Xは平成20年1月に更新料を支払い、同年5月に解約を申し入れて7月31日に物件を明け渡しましたが、保証金から敷引金30万円が控除されたため、敷引特約と更新料特約の無効を主張して返還を求めました。
ゲン敷引特約と更新料特約の有効性は、賃料との比率や契約期間などの条件で判断されます。
民法第601条:賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずる。
大阪高裁は最高裁基準を適用し敷引特約と更新料特約をいずれも有効と判断した


次に、大阪高裁がどのような基準で敷引特約と更新料特約を有効としたかを整理します。
裁判所は敷引特約について、敷引金30万円を含む保証金35万円と更新料を考慮した実質賃料を月額約7万2637円と算出し、物件の通常賃料相場である月額約7万2900円とほぼ同水準であることから、賃料の約5.17か月分の敷引金は高額に過ぎるとはいえないと判断しました。
更新料特約についても、賃料2か月分の11万6000円は2年の契約期間に対する賃料の補充や契約継続の対価としての性質を持ち、高額に過ぎないとされています。
これらの判断は、最高裁判所が平成23年3月24日(敷引特約)と同年7月15日(更新料特約)に示した基準を具体的に適用したものです。



敷引金の金額が賃料の何か月分にあたるかが、有効性判断の重要な基準となっています。
民法第622条の2第1項:賃貸人は、敷金(いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう。)を受け取っている場合において、賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたときは、賃借人に対し、その受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務の額を控除した残額を返還しなければならない。
クロスの耐用年数6年と残存価値の計算方法を確認しておくことが重要になる



クロス・カーペット・クッションフロア等の耐用年数は6年です。要は入居期間が6年以上であれば、原状回復費用は発生しない(0円)ということになります。
さらに、敷引特約が有効とされた場合でも、退去時に別途請求される通常損耗の修繕費用については、国土交通省のガイドラインで定められた耐用年数が基準となります。
クロス(壁紙)の耐用年数は6年で、定額法の計算によれば入居1年目の残存価値は約83%、3年目で約50%、6年目以降はほぼ1円となるため、長期入居ほど借主の負担は軽減されます。
敷引金は通常損耗の補修費用に充てられる性質を持つため、敷引金とは別に通常損耗の修繕費用を二重に請求されることは認められません。



敷引金が充当される範囲と、別途請求される費用の範囲を正確に把握しておきましょう。
民法第606条第1項:賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない。
この判決から学ぶ敷引特約と更新料特約が有効となる基準と対処法


- 敷引金が賃料の何か月分にあたるかが有効性判断の重要な指標になる
- 最高裁判決は敷引特約と更新料特約の有効性について具体的な基準を示している
- 退去時の費用精算では敷引金の充当範囲と追加請求の妥当性を確認できる


判決の内容を理解したうえで、自分の契約に含まれる敷引特約や更新料特約の有効性をどう判断すればよいか気になる方もいるでしょう。
ここでは、最高裁が示した有効性の基準と、退去時に確認すべきポイントを具体的に解説します。
敷引金が賃料の何か月分にあたるかが有効性判断の重要な指標になる


まず、敷引特約の有効性を判断するうえで最も重要な指標を確認します。
最高裁判所(平成23年3月24日判決)は、敷引金の額が賃料の額に比し高額に過ぎるなどの事情がない限り、敷引特約は消費者契約法10条に違反しないと判断しています。
この大阪高裁の判決では、敷引金30万円が賃料5万8000円の約5.17か月分であり、保証金や更新料を含めた実質賃料で考えると通常の賃料相場(月額約7万2900円)と同水準であることが有効性の根拠とされました。
敷引金が賃料の6か月分を超えなければ有効とされる傾向があることを知っておくと、自分の契約の特約が妥当かどうかを判断する材料になります。





敷引金と賃料の比率を計算してみると、特約の有効性を自分で判断しやすくなります。
民法第1条第2項:権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
最高裁判決は敷引特約と更新料特約の有効性について具体的な基準を示している


加えて、最高裁判所は敷引特約と更新料特約のそれぞれについて、有効性の判断基準を明確に示しています。
敷引特約については、最高裁(平成23年3月24日判決)が「通常損耗等の補修費用として通常想定される額、賃料の額、礼金等の有無およびその額等に照らし、敷引金の額が高額に過ぎると評価すべきものである場合」に限り消費者契約法10条により無効になると判示しています。
更新料特約については、最高裁(平成23年7月15日判決)が「賃料の補充や前払い、賃貸借契約を継続するための対価等の性質を有する」と認め、賃料と比べて高額に過ぎるなどの特段の事情がなければ有効であるとしています。
この2つの最高裁判決が現在の敷引特約と更新料特約の有効性を判断する実務上の基準となっており、大阪高裁もこの基準に従って判断を下しました。



最高裁の基準を知っておくことで、管理会社との交渉で具体的な法的根拠を示すことができます。
民法第90条:公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。
退去時の費用精算では敷引金の充当範囲と追加請求の妥当性を確認できる


最後に、敷引特約が有効であっても退去時に確認すべきポイントを解説します。
この判決でも触れられているとおり、敷引金は通常損耗の補修費用に充てられる性質を持つため、敷引金を差し引いたうえでさらに通常損耗の修繕費用を請求されることは二重請求にあたります。
退去時に敷引金とは別に修繕費用を請求された場合は、その費用が「借主の故意や過失による損耗」に限定されているかを確認し、通常損耗が含まれていれば減額を求めましょう。


敷引金の充当範囲を理解していれば不当な二重請求を見抜けるため、泣き寝入りを防げます。



退去費用の精算書を受け取ったら、敷引金で充当済みの項目と追加請求項目を必ず照合しましょう。
民法第703条:法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。
よくある質問
まとめ
この判決は、敷引特約と更新料特約が消費者契約法10条のもとでも有効となる具体的な基準を実務的に示した重要な事例です。
敷引特約や更新料特約が含まれる契約を締結している場合は、その金額が賃料に対して妥当な範囲内かどうかを確認することが大切です。
この記事のポイントを振り返ります。
- 大阪高裁は敷引金30万円(賃料の約5.17か月分)と更新料11万6000円をいずれも有効と判断した
- 敷引特約は敷引金が賃料に比べて高額に過ぎなければ有効とされる傾向がある
- 更新料特約は賃料の補充や契約継続の対価としての性質が認められれば有効になる
- 敷引金は通常損耗の補修費用に充当されるため二重請求は認められない
- 退去費用の精算書では敷引金の充当範囲と追加請求の妥当性を確認することが重要


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