
特優賃の通常損耗特約が公序良俗で無効?敷金返還が認められた判例解説
退去時に管理会社から「原状回復負担基準に基づいて補修費用を全額負担してほしい」と言われた場合、その費用の中に通常損耗分が含まれていないか確認したことはあるでしょうか。
本記事で紹介するのは、RETIO No.61に掲載された大阪高等裁判所の平成16年7月30日判決(RETIO判例検索システム)です。
この裁判では、住宅供給公社が貸主である特定優良賃貸住宅(特優賃)において、通常損耗分の修繕費用を賃借人に負担させる特約が公序良俗に反するかどうかが争われました。
大阪高裁は通常損耗分の原状回復特約を公序良俗に反し無効と判断し、敷金から控除された約21万円の返還を命じました。

監修者
1982年にサレジオ学院高校を卒業後、中央大学法学部法律学科に進学し1987年に卒業。法曹界を志し、様々な社会経験を経た後、2016年に行政書士試験に合格。2017年4月に「綜合法務事務所君悦」を開業。法律知識と実務経験を活かし、国際業務を中心に寄り添ったサービスを提供している。
日本行政書士会連合会 神奈川県行政書士会所属
登録番号 第17090472号
特優賃住宅の通常損耗特約が公序良俗違反で無効とされた経緯

- 賃貸借契約の条件と通常損耗の原状回復特約が争われた経緯
- 大阪高裁は通常損耗分の特約を公序良俗に反し無効と判断した
- クロスの耐用年数6年と残存価値の計算方法を把握しておくことが重要になる

「原状回復負担基準があるから通常損耗も借主負担」と言われた経験はありませんか。
この大阪高裁の判決は、住宅供給公社が定めた通常損耗の原状回復特約であっても公序良俗に反し無効になり得ることを示した重要な先例です。
賃貸借契約の条件と通常損耗の原状回復特約が争われた経緯

まず、この裁判の背景となった賃貸借契約の条件を確認します。
賃借人Xは平成8年1月に住宅供給公社Yから特定優良賃貸住宅(特優賃)の一室を賃料月額14万7,500円、敷金44万2,500円で賃借しました。
契約には入居説明会で配布された「すまいのしおり」に基づく原状回復負担基準により補修費を負担する特約が含まれていました。
Xは平成14年8月に解約して明渡しを行いましたが、Yは原状回復費用34万2,378円を敷金から控除し、残額10万122円のみを返還したため、Xは敷金残額の返還を求めて提訴しました。
ゲン通常損耗分の費用が敷金から控除されていないか、退去時の精算書を必ず確認しましょう。
民法第601条:賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずる。
大阪高裁は通常損耗分の特約を公序良俗に反し無効と判断した


次に、大阪高裁がどのような理由で通常損耗の原状回復特約を無効としたかを確認します。
裁判所は特優賃法施行規則13条が「賃貸人は賃借人の不当な負担となることを賃貸の条件としてはならない」と定めていることを重視し、通常損耗分の原状回復義務を賃借人に負わせることはこの規定が禁止する「不当な負担」に該当すると判断しました。
さらに、住宅供給公社は優越的な地位にあり、一方的に定めた契約書により通常損耗分を含む原状回復義務を借主に負わせることは社会通念上も認容し難いとしました。
敷金から控除された34万円余のうち通常損耗分20万4,648円は公序良俗に反する特約に基づくもので返還を命じました。



特優賃住宅では法令の規制が厳しく、通常損耗の借主負担が認められにくい傾向があります。
民法第622条の2第1項:賃貸人は、敷金を受け取っている場合において、賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたときは、賃借人に対し、その受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務の額を控除した残額を返還しなければならない。
クロスの耐用年数6年と残存価値の計算方法を把握しておくことが重要になる



クロス・カーペット・クッションフロア等の耐用年数は6年です。要は入居期間が6年以上であれば、原状回復費用は発生しない(0円)ということになります。
さらに、通常損耗の特約が無効とされた場合でも、借主の故意や過失による損耗については費用負担が発生するため、耐用年数を理解しておくことが重要です。
国土交通省のガイドラインでは、クロス(壁紙)の耐用年数は6年と定められており、本件のXは約6年半入居していたため、クロスの残存価値はほぼ1円に近い状態でした。
耐用年数を経過した設備については残存価値が1円となるため、借主が負担すべき原状回復費用は大幅に減額されます。



入居年数ごとに借主が負担すべき残存価値を計算ツールで確認できます。
民法第606条第1項:賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない。
この判決から学ぶ通常損耗特約の有効性の判断基準と対処法


- 特優賃住宅における原状回復特約が無効とされる法的根拠を理解する
- 通常損耗の原状回復義務を賃借人に負わせるには明確な合意が必要になる
- 通常損耗分の費用を不当に請求された場合は段階的に交渉を進められる


判決の要点を踏まえたうえで、実際に通常損耗分の費用を請求されたときにどう対処すればよいか知りたい方も多いでしょう。
ここでは、通常損耗特約が無効とされる法的根拠と、最高裁の判断基準、不当な請求への具体的な対処法を解説します。
特優賃住宅における原状回復特約が無効とされる法的根拠を理解する


まず、本判決が通常損耗特約を無効とした法的根拠を整理します。
大阪高裁は特優賃法施行規則13条の「不当な負担の禁止」を根拠に、通常損耗分の修繕費用を賃借人に負わせることは公序良俗(民法90条)に反すると判断しました。
公法人である住宅供給公社は優越的な地位にあり、一方的に定めた契約内容で賃借人に不当な負担をさせることは平成14年6月頃には社会通念上も認容し難い状態になっていたとされました。
特優賃住宅では法令の規制により通常損耗分を借主に負担させる特約は公序良俗に反し無効となる可能性が高いです。





特優賃住宅に住んでいる方は、退去時に通常損耗分が含まれていないか確認することが大切です。
民法第90条:公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。
通常損耗の原状回復義務を賃借人に負わせるには明確な合意が必要になる


加えて、最高裁判所も平成17年12月16日の判決で通常損耗の原状回復特約について重要な判断を示しています。
最高裁は、通常損耗について借主に原状回復義務を負わせるためには「契約書に具体的に明記されているか」または「口頭で説明し借主が明確に認識・合意していること」が必要と判示しました。
本件では入居説明会で「すまいのしおり」が配布されていましたが、大阪高裁は通常損耗を借主に負担させること自体が法令に反するため、合意の有無にかかわらず特約は無効としました。
通常損耗の特約は書面への明記や借主の明確な合意があっても法令違反であれば無効と判断される場合があります。



最高裁の判断基準を知っていれば、退去時の交渉で大きな武器になります。
民法第621条:賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に回復する義務を負う。
通常損耗分の費用を不当に請求された場合は段階的に交渉を進められる


最後に、通常損耗分の費用を不当に請求された場合の具体的な対処法を解説します。
まずは管理会社に「精算書の各項目が通常損耗に該当するかどうかの根拠を書面で示してほしい」と伝え、国土交通省のガイドラインと照合して通常損耗に該当する項目を特定しましょう。
交渉で合意に至らない場合は、消費者センター(消費者ホットライン188番)への相談や、60万円以下であれば少額訴訟の利用を検討してください。


通常損耗分の費用が敷金から不当に控除されている場合は不当利得として返還を求められます。



精算書の内訳を一つひとつ確認すれば、通常損耗分の返還を求められるケースは少なくありません。
民法第703条:法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。
よくある質問
まとめ
この判決は、特優賃住宅における通常損耗分の原状回復特約が公序良俗に反し無効と判断された重要な先例です。
退去時に通常損耗分の費用が敷金から控除された場合は、まず「精算書の各項目が通常損耗に該当するか」「特約に法的な有効性があるか」を確認することが大切です。
この記事のポイントを振り返ります。
- 大阪高裁は特優賃住宅の通常損耗特約を公序良俗に反し無効と判断した
- 敷金から控除された34万円余のうち通常損耗分約21万円の返還を命じた
- 特優賃法施行規則13条は借主への不当な負担を禁止している
- 通常損耗の原状回復義務を借主に負わせるには契約書への明記と明確な合意が必要
- 不当な請求には書面での交渉や消費者センターへの相談で対処できる


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