
クリーニング費用と礼金の特約は有効?消費者契約法10条で争われた東京地裁の判例を解説
退去時に「クリーニング費用は特約で支払い済みだから返金できない」と言われた場合、その特約は本当に有効なのでしょうか。
本記事で紹介するのは、東京地方裁判所が令和2年10月7日に下した判決(RETIO No.113)です。
この裁判では、賃貸借契約時に支払ったクリーニング費用と礼金が消費者契約法第10条により無効であるかどうかが争われました。
裁判所は、クリーニング費用の特約も礼金の特約も信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものとはいえないとして、借主の返還請求をすべて棄却しました。

監修者
1982年にサレジオ学院高校を卒業後、中央大学法学部法律学科に進学し1987年に卒業。法曹界を志し、様々な社会経験を経た後、2016年に行政書士試験に合格。2017年4月に「綜合法務事務所君悦」を開業。法律知識と実務経験を活かし、国際業務を中心に寄り添ったサービスを提供している。
日本行政書士会連合会 神奈川県行政書士会所属
登録番号 第17090472号
東京地裁が示したクリーニング特約と礼金特約の有効性に関する判断

- クリーニング費用4万6000円と礼金0.5か月分の返還をめぐる紛争の経緯
- 裁判所はクリーニング特約と礼金特約が消費者契約法に違反しないと判断した
- クロスの耐用年数6年と残存価値の計算方法を把握しておくことが重要になる

「クリーニング費用を前払いしたが、消費者契約法で取り戻せるのでは」と考えたことはありませんか。
この東京地裁の判決は、クリーニング費用や礼金の特約が一定の条件を満たしていれば消費者契約法で無効にはならないことを示した事例です。
クリーニング費用4万6000円と礼金0.5か月分の返還をめぐる紛争の経緯

まず、この裁判の背景を整理します。平成26年9月28日、借主Xは貸主Yとの間でマンション一室の賃貸借契約を締結しました。賃料は月額9万2000円、共益費4000円、契約期間は2年間でした。
契約時に借主Xはクリーニング費用として4万6000円を支払い、さらに礼金として賃料の0.5か月分を支払いました。また、賃貸住宅居住者総合保険の保険料として1万2450円も負担しています。
平成28年8月22日に借主Xは本件建物を明け渡しましたが、その後、クリーニング費用・礼金・保険料・退去後期間の賃料を合計した約12万5000円の返還を求めて訴訟を提起しました。
借主Xの主張は「クリーニング特約は消費者の義務を加重するものであり消費者契約法第10条により無効」「礼金特約も同様に無効」というものでした。
民法第601条は賃貸借契約について賃貸人が使用収益をさせる義務を定めており、借主Xはこの規定を根拠にクリーニング費用は賃料に含まれるべきだと主張しました。
ゲンクリーニング費用の前払い特約は消費者契約法10条による無効主張の対象になることがありますが、すべてが無効になるわけではありません。
民法第601条:賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずる。
裁判所はクリーニング特約と礼金特約が消費者契約法に違反しないと判断した


次に、裁判所が各請求についてどのように判断したかを整理します。
クリーニング費用について裁判所は、入居期間の長短にかかわらず清掃費用の一部を借主に負担させることは、賃貸人が清掃費用の一部を一般的に借主に負担させる範囲にとどまっていると判断しました。
クリーニング費用として3万2400円ないし4万6000円という金額は社会的相当性を逸脱したものとはいえず、信義則に反して消費者の利益を一方的に害するとはいえないと認定されました。
礼金については、賃貸借契約の締結時に借主から貸主に礼金を支払うことは一般的な慣習として広く行われており、0.5か月分の礼金は賃料の約半月分にとどまることから、消費者契約法第10条に違反しないとされました。
退去後期間の賃料と保険料相当額の返還請求についても、いずれも法律上の根拠がないとして棄却されました。



クリーニング費用が社会的相当性の範囲内であれば、特約は有効と判断されることがあります。
民法第621条:賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に回復する義務を負う。
クロスの耐用年数6年と残存価値の計算方法を把握しておくことが重要になる



クロス・カーペット・クッションフロア等の耐用年数は6年です。要は入居期間が6年以上であれば、原状回復費用は発生しない(0円)ということになります。
さらに、退去時の費用負担を正しく理解するために、国土交通省のガイドラインで定められたクロス(壁紙)の耐用年数を確認しておきましょう。
クロスの耐用年数は6年と定められており、定額法による計算では入居1年目で残存価値は約83%、3年目で約50%、そして6年を経過すると残存価値は1円となります。
本件ではクリーニング費用が争点であり、クロスの原状回復費用とは別の問題ですが、退去時にクリーニング費用以外にクロスの張替え費用も請求された場合は耐用年数に基づく減額を主張できます。



クリーニング費用と原状回復費用は別々に請求されることが多いので、それぞれの根拠を確認しましょう。
民法第606条第1項:賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない。
この判決から学ぶクリーニング特約の有効要件と退去費用への対処法


- クリーニング特約が有効とされるための法的要件を理解する
- クリーニング特約が無効と判断された判例との違いを比較する
- 退去時にクリーニング費用を不当に請求された場合の対処法を把握する


クリーニング特約が有効とされる場合と無効とされる場合にはどのような違いがあるのでしょうか。
ここでは、クリーニング特約の有効要件と無効判例との比較、そして退去時の対処法を解説します。
クリーニング特約が有効とされるための法的要件を理解する


まず、この東京地裁の判決を踏まえて、クリーニング特約が有効と認められるための要件を整理します。
裁判所は、クリーニング費用の金額が社会的相当性の範囲内であるかどうかを重視しました。本件では3万2400円から4万6000円という金額が「社会的相当性を逸脱していない」と判断されています。
国土交通省のガイドラインでも、クリーニング特約が有効とされるためには「金額が明示されていること」「借主が内容を理解し合意していること」が重要とされています。
本件の特約は契約書に金額が明記されており、借主も契約時に内容を確認して支払っていたことが、有効性の判断に影響したと考えられます。





クリーニング特約の有効性は金額の合理性と契約時の説明の有無で判断されることが多いです。
民法第1条第2項:権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
クリーニング特約が無効と判断された判例との違いを比較する


加えて、クリーニング特約が無効と判断された判例と比較することで、有効・無効の分かれ目をより深く理解できます。
クリーニング特約が無効とされたケースでは、金額が契約書に明示されていなかったり、借主に対して特約の内容が十分に説明されていなかったりする場合が多く見られます。
一方、本件のように金額が明記され、借主が契約時に内容を確認して支払っている場合には、特約が有効と判断される傾向があります。
クリーニング特約の有効・無効は、金額の社会的相当性、契約書への明記、借主への説明と合意の3点が判断の分かれ目になることを覚えておきましょう。
民法第90条は公序良俗に反する法律行為を無効としていますが、相場の範囲内のクリーニング費用については公序良俗に反するとまではいえないと判断されることが一般的です。



契約書に金額が明記されているかどうかが、クリーニング特約の有効性を左右する大きな要素です。
民法第90条:公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。
退去時にクリーニング費用を不当に請求された場合の対処法を把握する


最後に、退去時のクリーニング費用に疑問を感じた場合の具体的な対処法を解説します。
まずは契約書を確認し、クリーニング費用の金額が明記されているかどうかを確認してください。金額の明示がない場合や、契約時に説明を受けていない場合は、特約の有効性を争う余地があります。
クリーニング費用が相場を大幅に超えている場合は、管理会社に対して費用の内訳と根拠を書面で求めましょう。一般的なクリーニング費用の相場はワンルームで3万円前後、ファミリータイプで5万円から8万円程度です。


クリーニング費用に加えて原状回復費用も請求された場合は、通常損耗に該当する項目が含まれていないかを必ず確認し、不当な項目については減額を求めることが重要です。
民法第415条第1項は債務不履行による損害賠償を定めていますが、借主の故意や過失によらない損耗については貸主が請求することはできません。



クリーニング費用と原状回復費用の内訳を分けて確認し、それぞれの妥当性を検証しましょう。
民法第415条第1項:債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
よくある質問
まとめ
この判決は、クリーニング費用と礼金の特約が、金額の明示や社会的相当性の範囲内であれば消費者契約法第10条に違反しないことを示した事例です。
退去時のクリーニング費用に疑問を感じた場合は、まず「金額が契約書に明記されているか」「相場の範囲内か」を確認することが重要です。
この記事のポイントを振り返ります。
- 東京地裁はクリーニング特約と礼金特約が消費者契約法10条に違反しないと判断した
- クリーニング費用が社会的相当性の範囲内であれば特約は有効と認められる
- 特約の有効性は金額の明記・社会的相当性・借主の合意の3点で判断される
- クリーニング費用の相場を大幅に超える金額は争う余地がある
- クリーニング費用と原状回復費用の内訳を分けて妥当性を検証することが重要


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