
ハウスクリーニング特約とフリーレント特約の有効性が認められた判例を解説
退去時にハウスクリーニング費用を請求されたとき、「この特約は無効ではないか」と疑問に思ったことはありませんか。
本記事で紹介するのは、東京地方裁判所が令和2年9月23日に下した判決(RETIO 123-118)です。
この裁判では、賃借人がハウスクリーニング特約、フリーレント特約の開始日設定、賃借入居者総合保険への強制加入の3点について無効を主張しました。
裁判所は賃借人の請求にはいずれも理由がないとして、すべて棄却しました。

監修者
1982年にサレジオ学院高校を卒業後、中央大学法学部法律学科に進学し1987年に卒業。法曹界を志し、様々な社会経験を経た後、2016年に行政書士試験に合格。2017年4月に「綜合法務事務所君悦」を開業。法律知識と実務経験を活かし、国際業務を中心に寄り添ったサービスを提供している。
日本行政書士会連合会 神奈川県行政書士会所属
登録番号 第17090472号
東京地裁がハウスクリーニング特約とフリーレント特約を有効と判断した根拠

- 賃借人がクリーニング特約等の無効を主張して敷金返還を求めた経緯
- 裁判所はクリーニング特約が契約書に明記され費用も明確と判断した
- クロスの耐用年数6年と残存価値の計算方法を把握しておくことが重要になる

「クリーニング特約は無効だから払わなくていい」と思っていませんか。
ここでは、賃借人の主張と契約の経緯、裁判所が特約を有効と判断した理由、そして耐用年数の計算を確認します。
賃借人がクリーニング特約等の無効を主張して敷金返還を求めた経緯

まず、この裁判の背景として、賃借人は平成29年2月に賃貸マンションの賃貸借契約を締結し、契約書にはハウスクリーニング特約とフリーレント特約が記載されていました。
ハウスクリーニング費用は35平方メートル未満で一律3万5千円、35平方メートル以上で面積×1,000円と定められ、エアコンクリーニング費用もあわせて合計4万8,600円が敷金から控除されました。
賃借人はクリーニング特約は事前に説明されておらず明確な合意がないと主張し、フリーレント特約の開始日設定と入居者保険への強制加入もあわせて無効であるとして提訴しました。
賃貸借契約は当事者間の合意に基づく契約であり、特約の有効性は契約書の記載内容と合意の過程によって判断されます。
ゲン契約書に署名する前に、特約の内容を確認しておくことが大切です。
民法第601条:賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずる。
裁判所はクリーニング特約が契約書に明記され費用も明確と判断した


次に、裁判所がクリーニング特約を有効と判断した具体的な根拠を確認します。
裁判所は最高裁平成17年12月16日判決の基準を引用し、通常損耗の原状回復義務を賃借人に負わせるためには、契約書に具体的に明記されているか、口頭で説明し賃借人が明確に合意していることが必要と示しました。
そのうえで、本件のクリーニング費用は面積に応じた算定方法が一義的で明確であり、契約書の特約事項として具体的に記載されていたため、有効な合意が成立していると判断しました。
フリーレント特約についても期間と条件が明確であり、保険加入の要求にも合理的理由があるとして、賃借人の請求はすべて棄却されました。



特約の内容が明確で合理的であれば、裁判所は有効と判断する傾向があります。
民法第621条:賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に回復する義務を負う。
クロスの耐用年数6年と残存価値の計算方法を把握しておくことが重要になる



クロス・カーペット・クッションフロア等の耐用年数は6年です。要は入居期間が6年以上であれば、原状回復費用は発生しない(0円)ということになります。
さらに、この判決ではクリーニング特約が有効とされましたが、仮に原状回復費用が請求される場合には、国土交通省のガイドラインで定められた耐用年数による残存価値の計算が重要になります。
クロス(壁紙)の耐用年数は6年と定められており、定額法による計算では入居3年目で残存価値は約50%、6年目以降はほぼ1円となります。
クリーニング特約とは別に原状回復費用を請求された場合は耐用年数を確認し、過大な請求になっていないか検証することが大切です。



入居年数ごとに借主が負担すべき残存価値を計算ツールで確認できます。
民法第622条の2第1項:賃貸人は、敷金を受け取っている場合において、賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたときは、賃借人に対し、その受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務の額を控除した残額を返還しなければならない。
この判決から学ぶ特約の有効条件と退去費用への対処法


- 特約が有効とされるためには契約書への具体的な明記が必要になる
- クリーニング特約が消費者契約法10条で無効とされた判例も存在する
- 退去前にクリーニング特約の内容と費用の算出根拠を確認しておく


クリーニング特約が有効になるケースと無効になるケースの違いを知りたい方は多いでしょう。
ここでは、特約の有効条件と消費者契約法による無効判例、そして退去前にすべき確認事項を解説します。
特約が有効とされるためには契約書への具体的な明記が必要になる


まず、この判決から読み取れる特約の有効条件を整理します。
裁判所は最高裁平成17年12月16日判決を引用し、通常損耗の原状回復義務を借主に負わせる特約は、契約書に具体的に明記されているか口頭で説明し借主が明確に合意していることが必要と示しました。
費用の算出方法が面積に応じた一律の基準で一義的に定まっていることも、裁判所が有効と判断した重要な要素です。
賃借人の利益を一方的に害するとはいえないと判断されたため、消費者契約法10条による無効の主張も退けられました。





特約の有効性は契約書の記載内容と費用の合理性で判断されます。
民法第90条:公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。
クリーニング特約が消費者契約法10条で無効とされた判例も存在する


加えて、すべてのクリーニング特約が有効になるわけではない点も重要です。
東京簡易裁判所の判例では、ハウスクリーニング特約の費用が建物の賃貸人に通常の使用に伴う損耗として期待される程度を超える金額であったため、消費者契約法10条により無効とされたケースがあります。
特約が有効か無効かは費用の金額や算定方法の合理性で判断が分かれるため、一概に「クリーニング特約は有効」とも「無効」ともいえません。
本件のように費用が面積に応じた一律の基準で明確に定まっている場合と、不透明な高額請求の場合とでは、裁判所の判断が異なる点に注意が必要です。



類似の判例を複数確認しておくと、自分のケースに当てはまるかどうか判断しやすくなります。
民法第1条第2項:権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
退去前にクリーニング特約の内容と費用の算出根拠を確認しておく


最後に、退去前にすべき具体的な確認事項と対処法を解説します。
契約書のクリーニング特約を読み返し、費用の算出方法が明確に記載されているか確認しましょう。
特約の費用が相場と比較して著しく高額でないか確認しておくことで、不当な請求に対して根拠をもって交渉できるようになります。
疑問がある場合は、国民生活センターや消費者センターに無料で相談でき、弁護士による法律相談も選択肢のひとつです。





退去前に契約書を確認しておくだけで、不要なトラブルを防ぐことができます。
民法第415条第1項:債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
よくある質問
まとめ
この判決は、ハウスクリーニング特約が有効とされる具体的な条件を示した重要な先例です。
退去時にクリーニング費用を請求された場合は、まず契約書の特約内容を確認し、費用の算出方法が明確で金額が相場の範囲内かどうかを判断しましょう。
この記事のポイントを振り返ります。
- 裁判所はクリーニング特約が契約書に明記され費用も一義的で明確と判断した
- フリーレント特約と入居者保険の加入要求も合理的理由があり有効とされた
- 特約が有効かどうかは費用の算定方法の明確さと金額の合理性で決まる
- 費用が不透明で著しく高額な場合は消費者契約法10条で無効となる可能性がある
- 退去前に契約書のクリーニング特約と費用の算出根拠を必ず確認する


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