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貸室の害虫問題で借主の解約に正当な理由があるとされ解約負担金が否定された事例の判例解説(東京地裁 H25.12.25)
賃貸物件で害虫が繰り返し発生し、駆除しても改善しない場合、借主は解約負担金を支払わずに退去できるのでしょうか。
本記事で紹介するのは、東京地方裁判所が平成25年12月25日に下した判決(RETIO 96-120)です。
この裁判では、事業用ビルの貸室で害虫が発生し完全駆除に至らなかった状況のもと、借主の解約に正当な理由があるか、そして解約負担金の支払義務があるかが争われました。
裁判所は貸主の駆除努力を認めつつも、借主の解約には理由があるとして解約負担金の支払義務を否定しました。

監修者
1982年にサレジオ学院高校を卒業後、中央大学法学部法律学科に進学し1987年に卒業。法曹界を志し、様々な社会経験を経た後、2016年に行政書士試験に合格。2017年4月に「綜合法務事務所君悦」を開業。法律知識と実務経験を活かし、国際業務を中心に寄り添ったサービスを提供している。
日本行政書士会連合会 神奈川県行政書士会所属
登録番号 第17090472号
害虫問題を理由とした解約と敷金返還が争われた裁判の経緯

- 事業用ビルの貸室で害虫問題が発生し借主が解約に至った経緯
- 裁判所は貸主の駆除努力を認めつつ借主の解約に正当な理由があると判断した
- クロスの耐用年数6年と残存価値の計算方法を確認しておくことが重要になる

害虫問題が解決しないまま退去せざるを得なくなったとき、解約負担金まで支払う必要があるのか不安に思う方も多いでしょう。
この東京地裁の判決は、害虫の完全駆除に至らなかった場合に借主の解約が正当と認められ、解約負担金の支払義務が否定された重要な事例です。
事業用ビルの貸室で害虫問題が発生し借主が解約に至った経緯

まず、この裁判の背景となった契約内容と紛争の経緯を確認します。
賃借人Xは平成22年3月に賃貸人Yとの間で事業用ビルの貸室について賃貸借契約を締結し、月額賃料14万7000円、敷金は賃料3か月分の約43万5000円で入居しました。
入居後に貸室内で害虫が繰り返し発生し、貸主が業者を手配して駆除を試みたものの完全な駆除には至りませんでした。
Xは害虫問題を理由に解約を申し入れ物件を明け渡しましたが、Yは解約予告金・解約負担金・原状回復費用の支払いを求め、Xは敷金残額の返還と害虫問題による損害賠償を求めて双方が訴訟を提起しました。
ゲン害虫問題のような居住環境の不具合は、解約の正当な理由として認められることがあります。
民法第601条:賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずる。
裁判所は貸主の駆除努力を認めつつ借主の解約に正当な理由があると判断した


次に、裁判所がどのような判断を下したかを整理します。
裁判所は、害虫の駆除について貸主が業者の手配や薬剤散布などの対応を行ったことを認定し、貸主の対応が債務不履行にあたるとする借主の損害賠償請求は棄却しました。
一方で、害虫問題が完全に解決しなかった以上、借主の解約には正当な理由があるとして、解約負担金の支払義務を否定しています。
これは、賃貸人には物件を使用に適した状態で提供し続ける義務があり、害虫の完全駆除に至らなければ借主が不利益を受け続けることになるためです。



貸主が努力しても問題が解決しなければ、借主にはペナルティなく解約できる余地があります。
民法第415条第1項:債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
クロスの耐用年数6年と残存価値の計算方法を確認しておくことが重要になる



クロス・カーペット・クッションフロア等の耐用年数は6年です。要は入居期間が6年以上であれば、原状回復費用は発生しない(0円)ということになります。
さらに、退去時に請求される原状回復費用についても、国土交通省のガイドラインに基づく耐用年数の基準を確認しておく必要があります。
クロス(壁紙)の耐用年数は6年で、定額法による計算では入居1年目の残存価値は約83%、3年目で約50%、6年目以降はほぼ1円です。
原状回復費用の請求が来た場合は、各項目の耐用年数に基づく残存価値の範囲でしか借主は負担しなくてよいことを覚えておきましょう。



原状回復費用は耐用年数に応じて計算されるため、入居期間が長いほど借主の負担は軽くなります。
民法第606条第1項:賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない。
この判決から学ぶ解約の正当事由と敷金返還のポイント


- 居住環境の不具合が解消されない場合は解約負担金なしで退去できる可能性がある
- 貸主の修繕義務と借主の使用収益権のバランスが判断基準になる
- 退去費用の請求を受けたときは解約の正当性と原状回復費用の妥当性を確認できる


害虫問題や設備の不具合で退去を検討しているとき、解約負担金を請求されるのではないかと心配になる方もいるでしょう。
ここでは、解約が正当と認められる条件と、敷金返還を確実に受けるための具体的な対処法を解説します。
居住環境の不具合が解消されない場合は解約負担金なしで退去できる可能性がある


まず、この判決が示した解約負担金の判断基準を確認します。
賃貸借契約には中途解約の場合に解約負担金を支払う特約が含まれていましたが、裁判所は害虫問題が完全に解消されなかったことを理由に、借主の解約には正当な理由があると認定しました。
賃貸人には物件を使用に適した状態で提供する義務があり、その義務が十分に果たされていない状況では、借主に解約負担金の支払いを求めることは信義則に反する可能性があります。
害虫や設備の不具合など居住環境に重大な問題がある場合は、解約負担金なしで退去できる余地があることを覚えておきましょう。





解約負担金の支払いを求められたら、まず解約の正当な理由があるかどうかを確認しましょう。
民法第621条:賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に回復する義務を負う。
貸主の修繕義務と借主の使用収益権のバランスが判断基準になる


加えて、この判決では貸主の修繕義務と借主の使用収益権のバランスについて重要な判断が示されています。
裁判所は貸主が業者を手配して駆除を試みた努力を認めつつも、害虫問題が解消されず借主の事業に支障が生じていた点を重視しました。
貸主が修繕や対策を講じたとしても問題が解決しなければ、借主は使用収益権が侵害されていると主張できる場合があります。
ただし、この判決では貸主の対応が債務不履行にはあたらないとされたため、借主の損害賠償請求は棄却されている点にも注意が必要です。



貸主が努力したかどうかと、問題が解決したかどうかは別々に判断されることを理解しておきましょう。
民法第622条の2第1項:賃貸人は、敷金(いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう。)を受け取っている場合において、賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたときは、賃借人に対し、その受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務の額を控除した残額を返還しなければならない。
退去費用の請求を受けたときは解約の正当性と原状回復費用の妥当性を確認できる


最後に、退去費用の請求を受けたときの具体的な対処法を解説します。
まずは請求内容を「解約負担金」「原状回復費用」「未払賃料」の3つに分けて整理し、それぞれの支払義務があるかどうかを確認しましょう。
害虫問題や設備の不具合が解約の原因である場合は、その事実を証拠として残しておくことが重要であり、写真や管理会社とのやり取りの記録は交渉の有力な材料となります。


不当な解約負担金や原状回復費用を請求された場合は、不当利得として返還を求めることも可能です。



請求書の各項目を分けて検討し、支払い義務のない費用は明確に拒否することが大切です。
民法第703条:法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。
よくある質問
まとめ
この判決は、害虫問題が完全に解消されない場合に借主の解約には正当な理由があるとして、解約負担金の支払義務を否定した重要な事例です。
害虫や設備の不具合が原因で退去を検討している場合は、問題の証拠を残しつつ、解約の正当性を主張できるよう準備しておくことが大切です。
この記事のポイントを振り返ります。
- 害虫問題が完全に解消されなかった場合は借主の解約に正当な理由があると認められた
- 裁判所は貸主の駆除努力を認めたが解約負担金の支払義務は否定した
- 原状回復費用は耐用年数に基づく残存価値の範囲で借主が負担する
- 退去の原因が居住環境の問題である場合は証拠を残しておくことが重要
- 解約負担金と原状回復費用は別の性質であり個別に支払義務を確認する必要がある


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