
アパート退去で畳の焦げ跡のみ借主負担?原状回復義務の判例と対処法
退去時に管理会社から「クロスの張替えと畳の表替え、ハウスクリーニング代を全額負担してください」と言われたら、本当にすべて支払わなければならないのでしょうか。
本記事で紹介するのは、RETIO No.45に掲載された東京簡易裁判所の平成11年3月15日判決(RETIO判例検索システム)です。
この裁判では、アパート退去時の原状回復義務として畳・クロス・天井・ハウスクリーニングの費用を誰が負担すべきかが争われました。
裁判所は畳表1枚の焦げ跡と冷蔵庫の下のさび跡のみ借主負担と認め、それ以外は通常損耗として敷金の返還を命じました。

監修者
1982年にサレジオ学院高校を卒業後、中央大学法学部法律学科に進学し1987年に卒業。法曹界を志し、様々な社会経験を経た後、2016年に行政書士試験に合格。2017年4月に「綜合法務事務所君悦」を開業。法律知識と実務経験を活かし、国際業務を中心に寄り添ったサービスを提供している。
日本行政書士会連合会 神奈川県行政書士会所属
登録番号 第17090472号
畳の焦げ跡と冷蔵庫のさび跡のみが借主負担とされた経緯

- アパートの賃貸借契約の条件と退去後の原状回復費用をめぐる争いの経緯
- 裁判所は畳の焦げ跡とさび跡のみ借主負担としクロス等の費用は貸主負担と判断した
- 畳の耐用年数と残存価値の計算方法を把握しておくことが重要になる

退去費用の請求書に「畳の表替え6枚分」「クロス張替え」「ハウスクリーニング代」とまとめて記載されていたら、すべて払わなければならないと思い込んでいませんか。
この東京簡裁の判決は、約5年半の居住で生じた損耗のうち借主が負担すべき範囲を具体的に示した重要な先例です。
アパートの賃貸借契約の条件と退去後の原状回復費用をめぐる争いの経緯

まず、この裁判の背景となった賃貸借契約の条件を確認します。
賃借人Xは平成4年7月に賃料月額6万2,000円・敷金19万6,700円(賃料約3.2か月分)の条件で木造アパートの1室を賃借しました。
Xは約5年5か月間入居したのち平成9年12月に退去しましたが、Yは畳表替え6枚分やクロス張替え等の原状回復費用を請求しました。
これに対しXは通常の使用による損耗は貸主が負担すべきとして敷金の返還を求め、Yは反訴で原状回復費用の支払いを求めました。
ゲン退去費用の請求書が届いたら、各項目が通常損耗に該当するかを一つずつ確認しましょう。
民法第621条:賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に回復する義務を負う。
裁判所は畳の焦げ跡とさび跡のみ借主負担としクロス等の費用は貸主負担と判断した


次に、裁判所が各損耗箇所についてどのように判断したかを確認します。
裁判所は原状回復義務について「賃借人の故意・過失、善管注意義務違反その他通常の使用を超えるような使用による損耗・汚損があるときに限り復旧する義務を負う」と判示しました。
Xは愛煙家でしたが、約5年半の居住期間を考慮するとクロスの汚損は通常の使用による損耗の範囲内とされ、天井の汚れやハウスクリーニング費用、畳の摩耗も同様に貸主負担と判断されました。
ただし畳表1枚の一部焦げ跡と冷蔵庫の下のさび跡は通常の使用を超える損耗と認定され借主Xの負担とされました。



喫煙によるクロスの汚れでも入居期間を考慮して通常損耗と判断されることがあります。
民法第622条の2第1項:賃貸人は、敷金を受け取っている場合において、賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたときは、賃借人に対し、その受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務の額を控除した残額を返還しなければならない。
畳の耐用年数と残存価値の計算方法を把握しておくことが重要になる



クロス・カーペット・クッションフロア等の耐用年数は6年です。要は入居期間が6年以上であれば、原状回復費用は発生しない(0円)ということになります。
さらに、退去費用が請求された場合に備えて設備の耐用年数を理解しておくことが大切です。
国土交通省のガイドラインでは、クロス(壁紙)の耐用年数は6年と定められています。
本件のように約5年半入居した場合のクロスの残存価値は約8%であり、仮に借主負担の特約があっても実質的な負担額は非常に小さくなります。



入居年数ごとの残存価値を計算ツールで確認すれば、請求額が適正かどうかを判断できます。
民法第601条:賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずる。
この判決から学ぶ通常損耗の判断基準と退去費用の対処法


- 通常損耗と借主負担の損耗の具体的な判断基準を理解する
- 喫煙によるクロスの汚れは入居期間を考慮して通常損耗と判断される場合がある
- 退去費用が高額だと感じたら段階的に交渉を進められる


「焦げ跡は借主負担」と言われても、それ以外の費用まで払う必要があるのか疑問に思う方も多いでしょう。
ここでは、通常損耗と借主負担の損耗を区別する具体的な判断基準と、退去費用が高いと感じたときの対処法を解説します。
通常損耗と借主負担の損耗の具体的な判断基準を理解する


まず、本判決が示した通常損耗と借主負担の損耗の区別を整理します。
裁判所は「通常の使用及び収益によって生じた損耗」と「故意・過失や善管注意義務違反による損耗」を明確に区別し、前者は賃料に含まれるべき費用であるとしました。
本件では、クロスの汚れ・天井の汚れ・畳表の自然な摩耗・ハウスクリーニング費用はすべて通常損耗と判断されました。
畳の焦げ跡は借主の過失による損耗、冷蔵庫下のさび跡は善管注意義務違反による損耗と認定されました。





通常損耗か借主の過失かの判断基準を知っていれば、請求内容を冷静に検証できます。
民法第400条:債権の目的が特定物の引渡しであるときは、債務者は、その引渡しをするまで、契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らして定まる善良な管理者の注意をもって、その物を保存しなければならない。
喫煙によるクロスの汚れは入居期間を考慮して通常損耗と判断される場合がある


加えて、喫煙によるクロスの汚れの扱いについても本判決は重要な判断基準を示しています。
一般的に喫煙によるヤニ汚れは借主の過失として全額負担を求められるケースが多い印象がありますが、本件の裁判所は約5年半の入居期間を考慮しました。
愛煙家であったXのクロスの汚損について、入居年数を勘案すると通常の使用による損耗の範囲内であると認定しています。
喫煙の有無だけでなく入居期間や損耗の程度を総合的に判断して通常損耗か否かが決まることを示した点で画期的です。



喫煙者でも入居期間によっては通常損耗と認められる可能性があることを覚えておきましょう。
民法第606条第1項:賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない。
退去費用が高額だと感じたら段階的に交渉を進められる


最後に、退去費用が高額だと感じた場合の具体的な対処法を解説します。
まずは管理会社に「各損耗箇所が通常損耗に該当するか」「費用の算定根拠は何か」を書面で確認しましょう。
交渉で合意に至らない場合は、消費者センター(消費者ホットライン188番)への無料相談や、60万円以下であれば少額訴訟の利用を検討してください。
本件のように借主の過失による損耗だけを負担すれば済むケースは多いため、請求額をそのまま受け入れる必要はありません。





退去費用の明細を一つずつ確認するだけで、交渉を有利に進められるケースは少なくありません。
民法第703条:法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。
よくある質問
まとめ
この判決は、退去時の原状回復義務は借主の過失による損耗に限られ、通常損耗は貸主が負担すべきであることを明確に示した先例です。
退去費用の請求書を受け取ったら、まず各項目が「通常の使用による損耗」か「借主の過失による損耗」かを一つずつ確認することが重要です。
この記事のポイントを振り返ります。
- 東京簡裁は畳の焦げ跡と冷蔵庫下のさび跡のみ借主負担とし他の損耗は貸主負担と判断した
- 約5年半の入居で生じたクロスの汚れは喫煙者でも通常損耗と認定された
- 原状回復義務は借主の故意・過失や善管注意義務違反による損耗に限られる
- クロスの耐用年数は6年で入居期間が長いほど借主の負担額は少なくなる
- 退去費用の請求に納得がいかない場合は書面での交渉や少額訴訟で対処できる


- 敷金ドットコムは、情報提供を目的としたサイトです。行政書士が記事の監修および執筆を行っておりますが、根本的な問題やトラブルの解決を目的としたものではありません。トラブルの解決については、弁護士または認定司法書士にご相談ください。










とは?賃貸退去時の借主の責任範囲を解説_1772722420-300x169.jpg)