
クリーニング費用・鍵交換費用の借主負担特約が有効とされた事例【東京地裁 平21.9.18判決】
退去時に「ハウスクリーニング代は借主負担です」と言われたとき、その特約は本当に有効なのか疑問に感じたことはありませんか。
本記事で紹介するのは、東京地方裁判所が平成21年9月18日に下した判決(RETIO 78号)です。
この裁判では、ワンルームマンションの賃借人がハウスクリーニング費用と鍵交換費用を敷金から控除されたことに対し、特約の無効と返還を求めたことが争点となりました。
裁判所はこれらの特約が有効に成立しており、消費者契約法10条にも違反しないとして、借主の請求を棄却しました。

監修者
1982年にサレジオ学院高校を卒業後、中央大学法学部法律学科に進学し1987年に卒業。法曹界を志し、様々な社会経験を経た後、2016年に行政書士試験に合格。2017年4月に「綜合法務事務所君悦」を開業。法律知識と実務経験を活かし、国際業務を中心に寄り添ったサービスを提供している。
日本行政書士会連合会 神奈川県行政書士会所属
登録番号 第17090472号
東京地裁が示したクリーニング特約・鍵交換特約の有効性と判断基準

- ワンルームの賃借人がクリーニング費用と鍵交換費用の返還を求めた経緯
- 裁判所は両特約とも有効であり消費者契約法にも違反しないと判断した
- 耐用年数と残存価値の計算方法を把握しておくことが重要になる

「クリーニング代の特約は無効ではないか」という疑問を持つ借主は少なくありません。
この東京地裁の判決は、ハウスクリーニング費用・鍵交換費用の特約が一定の条件のもとで有効とされた重要な先例です。
ワンルームの賃借人がクリーニング費用と鍵交換費用の返還を求めた経緯

まず、この裁判の背景を整理します。
賃借人Xはワンルームマンション(賃料月額5万円)に入居し、契約書には「清掃費用負担特約」として退去時のハウスクリーニング費用2万5000円(消費税別)を借主が負担する旨が記載されていました。
また、鍵交換費用についても借主負担とする旨の特約が別途定められていました。
退去時にYが敷金からハウスクリーニング費用2万6250円および鍵交換費用を控除したため、XはこれらのΑ特約が消費者契約法10条に違反して無効であるとして、控除分の返還を求めて提訴しました。
Xの主張は、通常の使用による損耗は原則として貸主が負担すべきであり、クリーニング費用や鍵交換費用を借主に転嫁する特約は消費者の利益を一方的に害するというものでした。
一方、Yは契約書に特約が明記されており、借主も合意のうえで署名していることから、特約は有効であると反論しました。
ゲンクリーニング費用の特約が有効かどうかは、契約書への明記と金額の相当性がポイントになります。
民法第621条:賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に回復する義務を負う。
裁判所は両特約とも有効であり消費者契約法にも違反しないと判断した


次に、裁判所の判断内容を確認します。
裁判所はまず、ハウスクリーニング費用負担特約について、契約書に明記されており借主が認識して合意したものであるため、有効に成立していると認定しました。
金額面については、ワンルームマンションの専門業者によるクリーニング費用として2万5000円は相応な水準であり、賃料月額5万円の半額程度にとどまることから、消費者の利益を一方的に害するものではないとしました。
裁判所は、ハウスクリーニング費用の金額が明確に定められており、かつ金額が相場と比較して相当な範囲である場合には、消費者契約法10条に違反しないと判断しました。
鍵交換費用についても同様に、契約書に特約が明記されており合意が認められるとして有効とされました。
裁判所は、退去時に鍵を交換することは次の入居者の安全確保のために合理的であり、その費用を借主が負担する旨の特約は信義則に反しないとしています。



金額が相場の範囲内で契約書に明記されていれば、クリーニング費用の特約は有効とされる傾向があります。
民法第1条第2項:権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
耐用年数と残存価値の計算方法を把握しておくことが重要になる



クロス・カーペット・クッションフロア等の耐用年数は6年です。要は入居期間が6年以上であれば、原状回復費用は発生しない(0円)ということになります。
さらに、クリーニング費用とは別に退去時の原状回復費用が発生するケースもあるため、耐用年数と残存価値の関係を理解しておくことが重要です。
クロス(壁紙)の耐用年数は6年と定められており、入居年数が長いほど借主が負担すべき残存価値は低下します。
クリーニング費用は耐用年数による減額の対象外ですが、クロスやカーペットなどの内装材の修繕費用は入居年数に応じて借主負担が減る仕組みになっています。
退去時の費用明細を受け取ったら、クリーニング費用と原状回復費用を分けて確認し、それぞれの金額が適正かどうかを判断しましょう。



クリーニング費用と修繕費用では減額の仕組みが異なるため、それぞれ分けて確認しましょう。
民法第606条第1項:賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない。
この判決から学ぶクリーニング特約の有効条件と退去時の対処法


- クリーニング特約が有効となる3つの条件を理解しておく
- クリーニング特約が無効とされるケースもある
- 退去費用に疑問がある場合は書面での交渉が有効になる


判決の要点を理解したうえで、クリーニング特約が有効と認められる条件と無効になるケースの違いを確認しましょう。
ここでは、有効性の3条件、無効とされるケース、そして退去費用に疑問がある場合の対処法を解説します。
クリーニング特約が有効となる3つの条件を理解しておく


まず、本判決を踏まえたクリーニング費用特約の有効条件を整理します。
第一に、賃貸借契約書にクリーニング費用を借主が負担する旨が明確に記載されていることが必要です。
第二に、借主がその特約の内容を認識し、明確に合意していることが求められます。
第三に、クリーニング費用の金額が個別具体的に記載されており、その金額が相場と比較して相当な範囲にあることが重要です。
本判決では、ワンルームのクリーニング費用として2万5000円(税別)は専門業者の相場として相応であり、賃料月額5万円に対して過大ではないと認定されました。





特約の明記、借主の合意、金額の相当性の3つが揃えば有効と認められやすくなります。
民法第622条の2:賃貸人は、敷金を受け取っている場合において、賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき又は賃借人が適法に賃借権を譲り渡したときは、その受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務の額を控除した残額を返還しなければならない。
クリーニング特約が無効とされるケースもある


加えて、クリーニング費用特約が無効と判断されるケースについても確認しておきましょう。
最高裁平成17年12月16日判決では、通常損耗の原状回復義務を借主に負わせる特約が有効となるためには、借主の「明確な合意」が必要とされています。
契約書に金額が明記されていない場合や、口頭での説明が不十分な場合には、特約の有効性が否定される可能性があります。
また、クリーニング費用が相場と比較して著しく高額な場合には、消費者契約法10条により無効と判断される可能性があるため注意が必要です。
裁判例では、ワンルームに対して10万円を超えるクリーニング費用が問題となるケースもあり、金額の相当性は常にチェックすべきポイントです。



特約があっても金額が不相当に高い場合は無効とされることがあるため、相場を確認しましょう。
民法第90条:公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。
退去費用に疑問がある場合は書面での交渉が有効になる


最後に、退去時のクリーニング費用や鍵交換費用に疑問がある場合の対処法を確認します。
まずは契約書を確認し、特約の内容と金額が明記されているかどうかをチェックしましょう。
特約に金額が明記されていない場合は、相場を大幅に超える金額を請求されていないか確認し、書面で減額交渉を行うのが効果的です。
敷金から控除された費用の内訳書を請求し、各項目の金額が適正かどうかを一つずつ確認することが大切です。
クリーニング費用の特約が曖昧で金額が不明確な場合には、不当利得として返還を求められる可能性があります。





退去費用の内訳書は必ず請求し、各項目を契約書と照合して確認しましょう。
民法第703条:法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。
よくある質問
まとめ
この判決は、ハウスクリーニング費用・鍵交換費用の特約が契約書に明記されており金額が相場の範囲内であれば、有効に成立し消費者契約法10条にも違反しないことを示した先例です。
契約時にクリーニング特約の内容と金額を確認し、退去時に不当な金額を請求されていないかチェックすることが、トラブル防止の鍵となります。
この記事のポイントを振り返ります。
- クリーニング費用・鍵交換費用の特約は契約書に明記されていれば有効とされた
- 金額が相場の範囲内であれば消費者契約法10条にも違反しない
- 特約の有効性には明記・合意・金額の相当性の3条件が必要
- 金額が不明確な場合や高額すぎる場合は無効とされる可能性がある
- 退去費用の内訳書を確認し不当な金額には書面で交渉することが有効


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