
礼金特約は契約期間前退去で前払分の一部返還が認められた事例【大阪簡裁 平23.3.18判決】
入居時に支払った礼金は退去時に返ってこないものと思い込んでいませんか。
本記事で紹介するのは、大阪簡易裁判所が平成23年3月18日に下した判決(RETIO 86号)です。
この裁判では、賃貸借期間2年の契約で約1年で退去した賃借人が、支払った礼金12万円の返還を求めたことが争点となりました。
裁判所は礼金特約の一部を消費者契約法10条により無効とし、契約期間の残存部分に対応する前払分賃料相当額として約3万円の返還を命じました。

監修者
1982年にサレジオ学院高校を卒業後、中央大学法学部法律学科に進学し1987年に卒業。法曹界を志し、様々な社会経験を経た後、2016年に行政書士試験に合格。2017年4月に「綜合法務事務所君悦」を開業。法律知識と実務経験を活かし、国際業務を中心に寄り添ったサービスを提供している。
日本行政書士会連合会 神奈川県行政書士会所属
登録番号 第17090472号
大阪簡裁が示した礼金特約の有効性と前払賃料の返還義務

- 賃借人が約1年で退去し支払った礼金の返還を求めた経緯
- 裁判所は礼金を前払賃料と認定し一部返還を命じた
- 耐用年数と残存価値の計算方法を把握しておくことが重要になる

「礼金は返ってこないもの」と思っている方は多いかもしれません。
この大阪簡裁の判決は、契約期間の途中で退去した場合に、礼金の一部が前払賃料として返還される可能性を示した重要な先例です。
賃借人が約1年で退去し支払った礼金の返還を求めた経緯

まず、この裁判の背景を整理します。
賃借人Xは賃貸人Yとの間で賃貸借期間2年の建物賃貸借契約を締結し、賃貸マンションに入居しました。
Xは入居時に礼金として賃料の2.5か月分にあたる12万円を支払いました。
Xは約1年で退去し、支払った礼金12万円の全額返還を求めて訴訟を提起しました。
Xの主張は、礼金特約が消費者契約法10条に違反して無効であり、支払った礼金は不当利得として返還されるべきだというものです。
これに対し賃貸人Yは、礼金は契約の謝礼であり返還義務はないと反論しました。
ゲン契約期間の途中で退去した場合に礼金が返還されるかどうかが、この裁判の大きなポイントです。
民法第601条:賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずる。
裁判所は礼金を前払賃料と認定し一部返還を命じた


次に、裁判所がどのような判断を下したかを確認します。
裁判所はまず、礼金の法的性質について「広義の賃料の前払い」であると認定しました。
礼金は建物の使用収益の対価として授受されるものであり、実質的には賃料を使用期間に先立って一括で支払う性質を持つと判断されたのです。
裁判所は、礼金特約を締結すること自体は有効としつつも、契約期間の途中で退去した場合に前払分賃料相当額が返還されないとする部分は消費者契約法10条により無効としました。
Xは契約期間2年に対して約1年で退去したため、残りの約1年分に対応する前払賃料相当額として約3万円の返還が認められました。
この判決は、礼金の全額返還を認めたのではなく、使用しなかった期間に対応する部分のみを返還すべきとした点が特徴的です。



礼金が全額返ってくるわけではなく、未使用期間に対応する部分のみが返還対象となります。
民法第622条の2:賃貸人は、敷金を受け取っている場合において、賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき又は賃借人が適法に賃借権を譲り渡したときは、その受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務の額を控除した残額を返還しなければならない。
耐用年数と残存価値の計算方法を把握しておくことが重要になる



クロス・カーペット・クッションフロア等の耐用年数は6年です。要は入居期間が6年以上であれば、原状回復費用は発生しない(0円)ということになります。
さらに、礼金の返還問題とあわせて、退去時にかかる原状回復費用についても理解しておくことが重要です。
本件のように入居期間が約1年の場合、クロス(壁紙)の耐用年数6年に対する残存価値はまだ約83%あるため、借主の過失による損耗があれば一定の費用負担が生じます。
礼金の返還と原状回復費用を相殺すると、実際に手元に戻る金額は少なくなることがあるため、退去前に総合的な費用計算をしておくことが大切です。
入居1年目では設備の残存価値が高い状態にあるため、退去時に原状回復費用が高額になりやすい点にも注意が必要です。



礼金の返還額と原状回復費用を差し引きして、最終的な負担額を把握しておきましょう。
民法第621条:賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に回復する義務を負う。
この判決から学ぶ礼金特約の法的性質と退去時の対処法


- 礼金と敷金は法的性質が異なり返還条件も異なる
- 契約期間前の退去では礼金の一部返還が認められる可能性がある
- 礼金や退去費用に疑問がある場合は早めの相談が有効になる


判決の要点を理解したうえで、礼金の法的性質と退去時に知っておくべきポイントを確認しましょう。
ここでは、礼金と敷金の違い、契約期間途中退去のケース、そして疑問がある場合の対処法を解説します。
礼金と敷金は法的性質が異なり返還条件も異なる


まず、礼金と敷金の法的な違いを理解しておきましょう。
敷金は賃貸人が賃借人から預かる担保金であり、民法第622条の2により、賃貸借終了時に未払い賃料や原状回復費用を差し引いた残額が返還されます。
一方、礼金は賃貸借契約を締結する際に賃借人が賃貸人に支払う一時金であり、法律上は原則として返還義務がないとされてきました。
しかし本判決では、礼金の実質的な性質は「広義の賃料の前払い」であると認定され、契約期間に対応する使用対価としての性格が認められました。
この認定により、契約期間の途中で退去した場合には、使用しなかった期間に対応する部分の返還が認められる余地が生まれたのです。





礼金は「お礼」ではなく「前払賃料」として扱われるケースがあることを知っておきましょう。
民法第1条第2項:権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
契約期間前の退去では礼金の一部返還が認められる可能性がある


加えて、本判決が示した「期間対応性」の考え方を理解しておきましょう。
裁判所は、礼金が前払賃料としての性質を持つ以上、賃貸借期間との対応関係を検討する必要があるとしました。
契約期間を全うした場合には、前払分の賃料はすべて使用期間に対応するため返還は生じません。
しかし契約期間の途中で退去した場合には、未使用の期間に対応する前払分賃料相当額が返還されないのは消費者の利益を一方的に害するとして、その部分の特約を無効としました。
この判断は、礼金を支払う賃貸借契約で短期退去する場合に、借主にとって有利な先例となるものです。



契約期間を満了すれば返還は生じないため、入居期間がどの程度になるかも考慮しましょう。
民法第90条:公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。
礼金や退去費用に疑問がある場合は早めの相談が有効になる


最後に、礼金の返還を求める場合の具体的な対処法を確認します。
まずは契約書の礼金条項を確認し、礼金の金額が賃料の何か月分に相当するか、契約期間はどのくらいかを把握しましょう。
契約期間の途中で退去する場合に、未使用期間分の礼金を返還してもらえないか管理会社に書面で交渉することが第一歩です。
交渉で解決しない場合は、消費者センターへの相談や少額訴訟(60万円以下の請求の場合)の利用を検討しましょう。
本判決のように、礼金が前払賃料としての性質を持つと認定されれば、未使用期間分は不当利得として返還を求められる場合があります。





礼金の返還は個別の事情によって判断されるため、専門家への相談が確実です。
民法第703条:法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。
よくある質問
まとめ
この判決は、礼金の実質的な性質は前払賃料であり、契約期間の途中で退去した場合には未使用期間に対応する部分の返還が認められることを示した先例です。
礼金を支払う賃貸借契約では、契約期間と礼金の関係を理解しておくことが退去時のトラブル防止につながります。
この記事のポイントを振り返ります。
- 礼金の実質的な性質は広義の賃料の前払いであると認定された
- 契約期間途中の退去では未使用期間分の礼金返還が認められた
- 契約期間を全うした場合は礼金の返還対象にならない
- 礼金と敷金は法的性質が異なり返還条件も異なる
- 礼金の返還に疑問がある場合は消費者センターや少額訴訟の利用が有効


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