
上階からの漏水で賃貸人の修繕義務不履行が認められた事例|東京地裁令和2年判決
賃貸アパートで上階からの水漏れが何か月も続いているのに、管理会社が十分な対応をしてくれない経験はありませんか。
本記事で紹介するのは、RETIO No.121に掲載された東京地方裁判所が令和2年3月24日に下した判決です。
この裁判では、賃貸アパートで上階からの漏水が約30か月間にわたり続いたにもかかわらず、賃貸人が修繕義務を十分に履行しなかったことが争点となりました。
裁判所は賃貸人の債務不履行を一部認め、月額賃料の3割に相当する約62万円の損害賠償を命じる一方、引越代等の請求は棄却しました。

監修者
1982年にサレジオ学院高校を卒業後、中央大学法学部法律学科に進学し1987年に卒業。法曹界を志し、様々な社会経験を経た後、2016年に行政書士試験に合格。2017年4月に「綜合法務事務所君悦」を開業。法律知識と実務経験を活かし、国際業務を中心に寄り添ったサービスを提供している。
日本行政書士会連合会 神奈川県行政書士会所属
登録番号 第17090472号
東京地裁が示した上階からの漏水と賃貸人の修繕義務に関する判断

- 賃貸アパートで上階からの漏水が約30か月間続いた経緯
- 裁判所は賃貸人の修繕義務不履行を認め月額賃料の3割の損害賠償を命じた
- クロスの耐用年数6年と残存価値の計算方法を理解しておくことが重要になる

上階からの水漏れが長期間続いているのに管理会社が動いてくれないとき、どのような法的手段があるのか知りたい方は多いのではないでしょうか。
この東京地裁の判決は、賃貸人の修繕義務不履行による損害賠償額の算定方法を具体的に示した重要な判例です。
賃貸アパートで上階からの漏水が約30か月間続いた経緯

まず、この裁判の背景として、借主(原告)は平成27年2月にアパート1室の賃貸借契約を締結し、同年3月から居住を開始しました。
入居後まもなく上階からの漏水が発生し、借主は繰り返し賃貸人に修繕を求めましたが十分な対応がなされませんでした。
漏水は平成28年7月以降さらに悪化し、室内の確認約束も履行されないまま約30か月間にわたって被害が続きました。
賃貸借契約では賃貸人が賃借物を使用収益させる義務を負っており、漏水により使用が妨げられた場合はこの義務の不履行にあたります。
ゲン漏水被害が発生したときは、日時や状況を写真や記録で残しておくことが大切です。
民法第601条:賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずる。
裁判所は賃貸人の修繕義務不履行を認め月額賃料の3割の損害賠償を命じた


次に、裁判所が賃貸人の債務不履行をどのように判断したかを整理します。
東京地裁は、賃貸人が使用収益義務および修繕義務を十分に履行しなかったことを認定し、漏水により賃借物の使用が概ね3割程度妨害されていたと判断しました。
その結果、月額賃料×漏水期間30か月×3割=約62万円の損害賠償が認められました。
一方で、引越代や引越先の契約費用については、漏水があっても居住が完全に不可能であったとまでは認められないとして請求が棄却されています。



使用が妨害された割合に応じた賃料相当額を損害として請求できることを覚えておきましょう。
民法第415条第1項:債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
クロスの耐用年数6年と残存価値の計算方法を理解しておくことが重要になる



クロス・カーペット・クッションフロア等の耐用年数は6年です。要は入居期間が6年以上であれば、原状回復費用は発生しない(0円)ということになります。
さらに、漏水によりクロスや天井に被害が発生した場合、原状回復費用の負担を考える際には耐用年数の知識が役立ちます。
国土交通省のガイドラインでは、クロス(壁紙)の耐用年数は6年と定められており、入居6年以上であれば残存価値はほぼ1円になります。
漏水が原因のクロス損傷は借主の過失ではなく貸主が修繕義務を負う範囲に含まれます。



漏水による損傷は貸主の修繕義務の範囲であり、借主が費用を負担する必要はありません。
民法第621条:賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に回復する義務を負う。
この判決から学ぶ賃貸人の修繕義務と借主の対処法


- 賃貸人は賃借物の使用収益に必要な修繕をする義務を負っている
- 漏水被害が長期間続く場合は賃料減額や損害賠償の請求が認められる
- 漏水被害で賃貸人が対応しないときは段階的に対処できる


漏水被害の損害賠償が認められることはわかったものの、具体的にどう行動すればよいか迷う方も多いでしょう。
ここでは、賃貸人の修繕義務の法的根拠と漏水被害の損害賠償に関する判例の傾向、そして実際の対処法を解説します。
賃貸人は賃借物の使用収益に必要な修繕をする義務を負っている


まず、賃貸人の修繕義務について法律がどのように定めているかを確認します。
賃貸借契約では、賃貸人は賃借物を使用収益に適した状態で維持する義務を負っており、上階からの漏水のように建物の構造的な問題が原因で使用が妨げられる場合は修繕義務が発生します。
借主の過失によらない損傷の修繕は賃貸人の義務であり借主が費用を負担する必要はありません。
この判決でも、漏水の原因は上階の問題であり借主には責任がないことが明確に認定されています。





借主の過失でない修繕は貸主の義務です。
民法第1条第2項:権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
漏水被害が長期間続く場合は賃料減額や損害賠償の請求が認められる


加えて、この判決と同様に漏水被害に対する損害賠償が認められた裁判例は複数存在します。
令和2年の民法改正により、賃借物の一部が使用できなくなった場合は使用できなくなった部分の割合に応じて賃料が当然に減額されることが明文化されました。
漏水で使用が妨害された期間と割合に応じた賃料相当額を損害として請求できます。
この判決では使用妨害の割合を3割と認定しており、漏水の範囲や程度に応じて妨害割合が個別に判断されます。



漏水被害の程度と期間を記録しておくことが、損害賠償額の算定に直結します。
民法第533条:双務契約の当事者の一方は、相手方がその債務の履行を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができる。
漏水被害で賃貸人が対応しないときは段階的に対処できる


最後に、漏水被害で賃貸人が修繕対応をしないときの具体的な対処法を解説します。
まずは漏水の発生日時、被害箇所、管理会社への連絡履歴を写真と書面で記録し、内容証明郵便で修繕を正式に要請することが第一歩です。
修繕が行われない期間の賃料相当額は損害賠償として返還を求めることができます。
交渉で解決しない場合は、消費者センターへの相談や、損害額に応じた少額訴訟・通常訴訟の利用を検討しましょう。





証拠を確保したうえで段階的に対処すれば、損害賠償や敷金返還を実現できる可能性が高まります。
民法第622条の2第1項:賃貸人は、敷金を受け取っている場合において、賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき、又は賃借人が適法に賃借権を譲り渡したときは、賃借人に対し、その受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務の額を控除した残額を返還しなければならない。
よくある質問
まとめ
この判決は、約30か月間の漏水被害に対し賃貸人の修繕義務不履行を認め月額賃料の3割の損害賠償を命じた重要な先例です。
漏水被害に遭ったときは、まず「被害の記録を残す」「管理会社に書面で修繕を求める」ことが大切です。
この記事のポイントを振り返ります。
- 上階からの漏水が約30か月続き賃貸人の修繕義務不履行が認定された
- 使用が3割妨害されたとして月額賃料の3割×30か月の損害賠償が認められた
- 引越代等の請求は居住が不可能とまでは言えないとして棄却された
- 漏水による損傷の修繕は貸主の義務であり借主が費用を負担する必要はない
- 被害の記録と書面での修繕要請が損害賠償請求の重要な証拠となる


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