
アパート退去20年カビの費用負担と経年劣化
20年以上住んだアパートを退去する際に「カビが発生しているのでクロスの張替え費用を負担してください」と請求され、戸惑っている方もいるのではないでしょうか。
本記事で紹介するのは、国土交通省のガイドラインに収録されたカビによる費用負担のトラブルです(ガイドライン事例集2)。
この事例では、カビの発生が借主の善管注意義務違反に当たるかどうか、そしてクロスの張替え費用を借主が負担すべきかどうかが争点になりました。
裁判所は、カビの発生に借主の責任があったとしても、約20年の長期入居でクロスの耐用年数6年を大幅に超えているため残存価値はほぼ1円であり、クロス張替え費用の負担は不要と判断しました。

監修者
1982年にサレジオ学院高校を卒業後、中央大学法学部法律学科に進学し1987年に卒業。法曹界を志し、様々な社会経験を経た後、2016年に行政書士試験に合格。2017年4月に「綜合法務事務所君悦」を開業。法律知識と実務経験を活かし、国際業務を中心に寄り添ったサービスを提供している。
日本行政書士会連合会 神奈川県行政書士会所属
登録番号 第17090472号
東京簡裁が示したカビによるクロス張替え費用と経年劣化の減額判断

- カビが発生したアパートの契約内容と約20年間の入居経緯
- 裁判所はカビの責任が借主にあっても経年劣化で費用負担は不要と判断した
- クロスの耐用年数6年と残存価値の計算方法を確認する

長年住んだアパートでカビが原因の退去費用を請求されたとき、本当に全額支払う必要があるのか不安になる方は多いでしょう。
この東京簡裁の判決は、カビの発生原因にかかわらず経年劣化でクロスの残存価値がほぼゼロになるケースを示した重要な事例です。
カビが発生したアパートの契約内容と約20年間の入居経緯

まず、この裁判の背景となった契約内容と入居経緯を確認します。
借主はアパートに約20年間入居しており、契約時に敷金として13万8000円を貸主に預けていました。
退去時に室内のクロスにカビが発生していることが確認され、貸主は敷金13万8000円の全額不返還の方針をとりました。
借主はカビの発生について換気不足などの善管注意義務違反を指摘されましたが、約20年もの長期にわたって入居していた事実がこの裁判の重要な要素になりました。
20年も住んでいれば、クロスの価値は経年劣化でほとんどなくなっているのがポイントです。
民法第601条:賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずる。
裁判所はカビの責任が借主にあっても経年劣化で費用負担は不要と判断した


次に、東京簡易裁判所が平成19年5月29日に下した判断の内容を整理します。
裁判所は、カビの発生について借主の換気不足などの善管注意義務違反があった可能性を認めつつも、クロスの耐用年数が6年であることに注目しました。
約20年の入居期間は耐用年数6年を3倍以上超過しており、残存価値ほぼ1円で借主負担なしという結論が出されました。
ただし裁判所はクリーニング費用など一部の費用については借主の負担を認め、最終的に敷金13万8000円のうち11万1330円の返還を命じました。
カビの責任があっても、耐用年数を超えていればクロスの張替え費用を負担しなくてよい場合があります。
民法第621条:賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に回復する義務を負う。
クロスの耐用年数6年と残存価値の計算方法を確認する
クロス・カーペット・クッションフロア等の耐用年数は6年です。要は入居期間が6年以上であれば、原状回復費用は発生しない(0円)ということになります。
さらに、この判決で重要な根拠となったクロス(壁紙)の耐用年数について具体的に確認します。
国土交通省のガイドラインでは、クロスの耐用年数は6年と定められており、定額法で残存価値を計算します。
入居1年目の残存価値は約83%、3年目で約50%、そして6年経過で残存価値はほぼ1円になるため、約20年入居していたこの事例ではクロスの張替え費用を借主に求めることは認められませんでした。
入居年数を入力して借主の負担額がどの程度になるか確認してみてください。
上の計算ツールで入居年数を入力すると、借主が負担すべき残存価値を確認できます。
民法第1条第2項:権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
この事例から学ぶカビの退去費用と経年劣化の対処法


- 善管注意義務違反があっても経年劣化による減額が適用される法的根拠
- カビに関する他の裁判例でも耐用年数の経過が重視されている
- カビによる退去費用を請求されたときの具体的な対処手順


カビが原因で退去費用を請求されたとき、自分にも責任があるからと諦めてしまう方は少なくありません。
ここでは、善管注意義務違反と経年劣化の関係や類似判例、そして不当な請求への具体的な対処法を解説します。
善管注意義務違反があっても経年劣化による減額が適用される法的根拠


まず、この判決の法的根拠として最も重要な善管注意義務違反と経年劣化の関係を確認します。
民法第400条は借主に善管注意義務を課しており、カビの放置や換気不足はこの義務に違反する行為と判断されることがあります。
しかし国土交通省の原状回復ガイドラインでは、善管注意義務違反による損傷であっても設備の経過年数を考慮して借主の負担額を決定するとされています。
つまり耐用年数超過なら借主負担は免除されるのが、この判決の核心的なポイントです。


カビの責任を問われても、経年劣化の考え方で借主の負担額は大幅に減額されます。
民法第400条:債権の目的が特定物の引渡しであるときは、債務者は、その引渡しをするまで、契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らして定まる善良な管理者の注意をもって、その物を保存しなければならない。
カビに関する他の裁判例でも耐用年数の経過が重視されている


加えて、カビに関連する他の裁判例を見ても、耐用年数の経過が借主の費用負担を判断する重要な基準になっています。
たとえば入居10年のケースでは、クロスの耐用年数6年を超えているため、カビによるクロス張替え費用の借主負担は認められないと判断された事例があります。
一方で入居3年程度の短期間でカビを放置した場合は、クロスの残存価値がまだ約50%残っているため、短期入居では一部借主負担の可能性があります。
このように入居期間の長さが借主の費用負担額に直結するため、退去時にはまず何年住んでいたかを確認することが大切です。
入居期間が長いほど経年劣化で残存価値が下がるため、借主の負担額は少なくなります。
民法第415条第1項:債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
カビによる退去費用を請求されたときの具体的な対処手順


最後に、カビを理由に退去費用を請求された場合の具体的な対処手順を解説します。
まずは請求書の内訳を確認し、クロス張替え費用が計上されている場合は入居期間と耐用年数6年を比較してください。
耐用年数を超えている場合は「国土交通省のガイドラインに基づき、クロスの残存価値はほぼ1円であるため張替え費用の負担はできない」旨を書面で管理会社に伝えましょう。
交渉で解決しない場合は、消費者センターや少額訴訟の活用を検討してください。


退去費用の請求書が届いたら内訳と入居期間を照らし合わせて根拠を確認してみてください。
書面で根拠を示して交渉すれば、多くのケースで退去費用の減額が実現しています。
民法第622条の2第1項:賃貸人は、敷金を受け取っている場合において、次に掲げるときは、賃借人に対し、その受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務の額を控除した残額を返還しなければならない。
よくある質問
まとめ
この判決は、カビがあっても経年劣化で費用負担免除になることを示した重要な先例です。
20年住んだアパートでカビを理由にクロス張替え費用を請求された場合は、まず耐用年数と入居期間を比較して残存価値を確認することが大切です。
この記事のポイントを振り返ります。
- 東京簡裁はカビの責任が借主にあっても経年劣化でクロス張替え費用の負担は不要と判断した
- クロスの耐用年数は6年で約20年入居すると残存価値はほぼ1円になる
- 敷金13万8000円のうち11万1330円の返還が命じられた
- 善管注意義務違反があっても耐用年数を超えた設備の費用負担は原則として認められない
- 不当な請求には書面での交渉や消費者センターへの相談で対処できる


- 敷金ドットコムは、情報提供を目的としたサイトです。行政書士が記事の監修および執筆を行っておりますが、根本的な問題やトラブルの解決を目的としたものではありません。トラブルの解決については、弁護士または認定司法書士にご相談ください。










