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ゴミ屋敷と火災による原状回復費用が賃借人負担とされた事例を解説|東京地裁 平成28年判決

ゴミ屋敷と火災による原状回復費用が賃借人負担とされた事例を解説|東京地裁 平成28年判決

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退去時に「火災による損害の原状回復費用を全額請求する」と言われた場合、借主はどこまで負担しなければならないのでしょうか。

本記事で紹介するのは、東京地方裁判所が平成28年8月19日に下した判決(RETIO 106号)です。

この裁判では、貸室をゴミ屋敷にしたうえタバコの不始末で火災を発生させた賃借人に対し、賃貸人が原状回復費用等の支払いを求めたことが争点となりました。

裁判所は賃借人に対して約112万5000円の原状回復費用を認め、火災による損害には経年劣化の考え方が適用されないと判断しました。


ゲン
監修者

1982年にサレジオ学院高校を卒業後、中央大学法学部法律学科に進学し1987年に卒業。法曹界を志し、様々な社会経験を経た後、2016年に行政書士試験に合格。2017年4月に「綜合法務事務所君悦」を開業。法律知識と実務経験を活かし、国際業務を中心に寄り添ったサービスを提供している。

日本行政書士会連合会 神奈川県行政書士会所属
登録番号 第17090472号


目次

東京地裁が示した火災による原状回復費用の負担と損害賠償の範囲

退去費用トラブルの解決に利用する裁判所の外観
  • ゴミ屋敷化とタバコの不始末による火災に至った賃貸借契約の経緯
  • 裁判所は原状回復費用約112万5000円を賃借人負担と認定した
  • 耐用年数と残存価値の計算方法を理解しておくことが重要
賃貸物件の退去情報サイト - 敷金ドットコム
この段落のポイント

賃貸物件で火災を起こした場合、通常の退去費用とは異なる高額な原状回復費用を負担することになります。

この東京地裁の判決は、借主の過失による火災では経年劣化の考え方が適用されず、貸室を本来の状態に戻す費用が全額借主負担となることを明確にした重要な先例です。

ゴミ屋敷化とタバコの不始末による火災に至った賃貸借契約の経緯

建物の賃貸借契約書と重要事項説明書

まず、この裁判の背景となった賃貸借契約の経緯を整理します。

賃借人Yは平成7年11月に築36年以上の木造マンションの一室に入居し、賃料は月額7万円、敷金は68,000円の条件で賃貸借契約を締結しました。

入居後、Yは貸室内にゴミを大量に溜め込み、いわゆるゴミ屋敷の状態にしていました。

平成27年2月4日にYはタバコの不始末により貸室内で火災を発生させ、同月28日に退去しました

賃貸人Xは、壁紙・フローリング・給排水設備・電気設備・ガス設備の補修費用として約143万円、退去後の使用不能期間の賃料相当額として約133万円、逸失利益として約34万円を請求しました。

ゲン

借主の過失で火災を起こすと、通常の退去費用とは比較にならない高額な賠償を求められることがあります。

民法第601条:賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずる。

引用元:第一款 総則 | e-Govポータル

裁判所は原状回復費用約112万5000円を賃借人負担と認定した

原状回復費用の精算書と計算内容

次に、裁判所がどのように損害額を認定したかを解説します。

Yは「マンションの築年数が36年を超えているため、経年劣化分を差し引くべきだ」と主張しました。

しかし裁判所は、本件の損害は借主の過失による火災とゴミ屋敷化によって生じたものであり、通常使用による経年劣化とは性質が根本的に異なると判断しました。

裁判所は貸室を本来機能していた状態に戻す工事を行う義務が賃借人にあるとし、原状回復費用約112万5000円を認定しました

また、退去後に貸室を貸し出せなかった期間の賃料相当額についても一部が認容され、Yの賠償責任が広範囲にわたることが示されました。

ゲン

過失による火災の場合、建物の築年数が古くても経年劣化による減額は認められにくい点を覚えておきましょう。

民法第415条第1項:債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。

引用元:第一款 債務不履行の責任 | e-Govポータル

耐用年数と残存価値の計算方法を理解しておくことが重要

ゲン

クロス・カーペット・クッションフロア等の耐用年数は6年です。要は入居期間が6年以上であれば、原状回復費用は発生しない(0円)ということになります。

ここで、退去費用の基本となる耐用年数と残存価値の考え方を確認しておきましょう。

国土交通省のガイドラインでは、通常の使用による損耗について設備ごとの耐用年数に基づいて残存価値を計算し、借主の負担額を算定する考え方が示されています。

ただし、この判決が示したように、借主の過失による火災や著しい善管注意義務違反による損害にはガイドラインの経年劣化の考え方は適用されません

通常の退去費用であれば、クロスの耐用年数6年を過ぎると残存価値はほぼ1円となり借主の負担は大幅に軽減されますが、火災のような重過失のケースでは全額負担を求められる可能性があります。

ゲン

通常の退去と火災による退去では費用負担のルールが根本的に異なることを理解しておきましょう。

民法第606条第1項:賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない。

引用元:第一款 総則 | e-Govポータル

この判決から学ぶ善管注意義務と火災時の法的責任

退去費用・原状回復の問題解決に役立つ六法全書と弁護士バッジ
  • 善管注意義務違反による損害は経年劣化とは別に賠償の対象となる
  • 火災による損害にはガイドラインの経年劣化の考え方が適用されない
  • 退去費用が高額になった場合の具体的な対処法
賃貸物件の退去情報サイト - 敷金ドットコム
この段落のポイント

判決の法的根拠を理解したうえで、火災による退去費用がどのように算定されるのか気になる方も多いでしょう。

ここでは、善管注意義務違反と火災損害の関係、ガイドラインの適用範囲、そして高額な退去費用への具体的な対処法を解説します。

善管注意義務違反による損害は経年劣化とは別に賠償の対象となる

賃貸借契約時に使う契約書類と印鑑

まず、この判決における善管注意義務違反の位置づけを整理します。

賃借人は賃貸物件を善良な管理者の注意をもって使用する義務を負っており、この義務に違反して損害が発生した場合は債務不履行として賠償責任を負います。

本件では、Yが貸室をゴミ屋敷の状態にしたこと自体が善管注意義務の重大な違反に該当し、さらにタバコの不始末による火災は注意義務違反の最たるものと判断されました。

善管注意義務に著しく違反した場合の損害賠償は、通常損耗や経年劣化の問題とは切り離して算定されます

ゲン

タバコの不始末やゴミの放置は善管注意義務違反の典型例であり、高額な賠償責任を負う可能性があります。

民法第400条:債権の目的が特定物の引渡しであるときは、債務者は、その引渡しをするまで、契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らして定まる善良な管理者の注意をもって、その物を保存しなければならない。

引用元:第一節 総則 | e-Govポータル

火災による損害にはガイドラインの経年劣化の考え方が適用されない

入居・退去の注意事項が記載された重要事項説明書

加えて、この判決で注目すべきは、国土交通省のガイドラインの適用範囲に関する判断です。

Yは「マンションの築年数が36年を超えているため、ガイドラインに基づいて経年劣化分を控除すべきだ」と主張しました。

しかし裁判所は、本件は借主の過失による火災で生じた損害であり、通常使用による経年劣化とは性質が根本的に異なるため、ガイドラインの考え方は直接適用されないと判断しました。

ガイドラインの経年劣化に基づく減額は通常損耗にのみ適用されるものであり、火災や故意による損害には適用されません

このため、築年数が古い物件であっても、借主の重過失で生じた損害については本来の機能を回復させるための費用を全額負担する義務が生じます。

ゲン

火災のような重大な過失がある場合は、経年劣化を理由に減額を主張することが難しくなります。

民法第709条:故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

引用元:第五章 不法行為 | e-Govポータル

退去費用が高額になった場合の具体的な対処法

退去立会いができない場合に弁護士に相談している様子

最後に、退去費用が高額になった場合の具体的な対処法を解説します。

まずは請求書の内訳を確認し、各項目の金額が適正かどうかを検証しましょう。

火災保険に加入している場合は、保険金で原状回復費用の一部または全部を賄える可能性があるため、速やかに保険会社に連絡することが重要です。

賠償金額に疑問がある場合は、複数の業者から修繕見積もりを取得し、貸主が提示した金額と比較することで交渉の材料にできます。

高額な退去費用を請求された場合でも、請求内容の適正性を確認し、火災保険の適用や分割払いの交渉を行うことで負担を軽減できる可能性があります

ゲン

火災保険の加入状況を確認し、弁護士に相談することで最善の対処法を見つけられます。

民法第621条:賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に回復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。

引用元:第三款 賃貸借の終了 | e-Govポータル

よくある質問

賃貸物件で火災を起こした場合の退去費用はどのくらいですか

火災の規模や損害の範囲によって大きく異なりますが、この事例では原状回復費用として約112万5000円が認定されました。

壁紙や床の張替えに加え、給排水設備や電気設備の修繕費用、さらには貸し出せなかった期間の賃料相当額も請求される可能性があります。

火災の場合でも経年劣化による減額を主張できますか

借主の過失による火災の場合、経年劣化による減額を主張することは困難です。

この東京地裁の判決でも、火災による損害は通常使用の経年劣化とは性質が異なるため、ガイドラインの経年劣化の考え方は適用されないと判断されています。

火災保険で原状回復費用をまかなうことはできますか

借家人賠償責任保険に加入していれば、借主の過失で貸主に損害を与えた場合の原状回復費用を保険金でまかなうことができます。

賃貸借契約時に加入した火災保険の内容を確認し、借家人賠償責任保険が含まれているかどうかをチェックすることが重要です。

ゴミ屋敷にした場合の退去費用は通常より高くなりますか

はい、ゴミ屋敷の状態にした場合は善管注意義務の重大な違反に該当し、通常の退去費用よりも大幅に高額になる可能性があります。

ゴミの撤去費用に加え、臭い対策や害虫駆除、壁や床の著しい汚損の修繕費用が請求されることがあります。

まとめ

この判決は、借主の過失による火災やゴミ屋敷化の損害は通常損耗とは別に賠償の対象となり、経年劣化の考え方が適用されないことを明確に示した先例です。

賃貸物件を適切に管理し、火災保険に加入しておくことが、万が一の事態に備える最善の方法です。

この記事のポイントを振り返ります。

この記事のポイント
  • 敷金ドットコムは、情報提供を目的としたサイトです。行政書士が記事の監修および執筆を行っておりますが、根本的な問題やトラブルの解決を目的としたものではありません。トラブルの解決については、弁護士または認定司法書士にご相談ください。

ゲンのアバター ゲン 監修者

1982年にサレジオ学院高校を卒業後、中央大学法学部法律学科に進学し1987年に卒業。法曹界を志し、様々な社会経験を経た後、2016年に行政書士試験に合格。2017年4月に「綜合法務事務所君悦」を開業。法律知識と実務経験を活かし、国際業務を中心に寄り添ったサービスを提供している。

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