
ハウスクリーニング特約が有効と判断され借主の返還請求が棄却された判例を解説
退去時のハウスクリーニング費用について、契約書に具体的な金額が明記され、借主がその内容を認識して合意していれば、ハウスクリーニング特約は有効と判断されます。
本記事では、東京地裁令和3年11月1日判決(RETIO No.128-156)を詳しく解説します。この判例では、転借人がハウスクリーニング特約の無効を主張したものの、裁判所は特約を有効と認め、敷金からの控除を適法と判断しました。さらに、貸主にはクリーニング実施状況を借主に報告する義務はないとの判断も示されています。
ハウスクリーニング特約が有効になる条件と無効になる条件の具体的な違いを知りたい方は、ぜひ最後までお読みください。退去費用の交渉にも役立つ重要な内容です。
裁判所は、金額の明記・借主への説明・金額の相当性という3つの基準から特約の有効性を判断しました。ハウスクリーニング特約の有効・無効の分かれ目を正しく理解しておくことが、退去費用トラブル予防の第一歩です。

監修者
1982年にサレジオ学院高校を卒業後、中央大学法学部法律学科に進学し1987年に卒業。法曹界を志し、様々な社会経験を経た後、2016年に行政書士試験に合格。2017年4月に「綜合法務事務所君悦」を開業。法律知識と実務経験を活かし、国際業務を中心に寄り添ったサービスを提供している。
日本行政書士会連合会 神奈川県行政書士会所属
登録番号 第17090472号
事件の概要と判決のポイント

- 事案の背景と契約内容
- 争点と当事者の主張
- 退去費用に影響する原状回復の耐用年数

- 転借人がハウスクリーニング特約の無効を主張し敷金の返還を求めた
- 裁判所は金額が明記され借主が合意した特約を有効と認めた
- 貸主にはクリーニング実施状況を借主に報告する義務はないと判示した
事案の背景と契約内容

本件は、転借人X(個人)が転貸人Y(宅建業者)に対し、ハウスクリーニング特約の無効を主張して敷金の返還を求めた事案です。東京地裁令和3年11月1日判決(RETIO No.128-156)として知られる、クリーニング特約の有効性について重要な判断を示した事例です。
平成28年6月、Xは専有面積81㎡の賃貸マンションについてYとの間で転貸借契約を締結し、敷金25万円を預け入れました。契約書には、退去時にXがハウスクリーニング費用として8万9100円(税別)を負担する旨の特約が明記されていました。
Xは約4年間入居した後、令和2年6月に本件転貸借契約を終了して退去しました。Yは令和2年11月、敷金25万円からハウスクリーニング費用および畳の原状回復費用を合わせた約10万円を控除し、残額の15万円をXに返還しました。しかしXはこの控除に不満を持ち、控除された10万円の返還と遅延損害金の支払いを求めて訴訟を提起しました。
なお、転貸人Yは宅建業者であり、契約時に重要事項説明書によりハウスクリーニング費用の負担について詳細な説明を行っていた点も本件の重要な事実です。宅建業者が重要事項説明で特約の内容を説明し書面に残していることは、借主が特約の内容を認識し合意したことの有力な証拠となります。
ゲン転貸借(いわゆるサブリース)の契約でも、ハウスクリーニング特約の有効性は通常の賃貸借と同じ基準で判断されます。
(民法第601条)
賃貸人は、賃借人に目的物を使用及び収益させることを約し、賃借人はこれに対してその賃料を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。
出典:民法 第601条(e-Gov法令検索)
争点と当事者の主張


本件の争点は大きく2つです。第一にハウスクリーニング特約の有効性、第二に転貸人Yにはクリーニング実施状況をXに報告する義務があるかという点でした。
転借人Xは、ハウスクリーニング特約は通常損耗の原状回復費用を借主に負担させるものであり、消費者契約法第10条に反し無効であると主張しました。また、転貸人はハウスクリーニングを実施したかどうかを借主に報告する義務があるとして、控除された10万円全額の返還を求めました。
一方、転貸人Yはハウスクリーニング特約は契約書に具体的金額を明記しており、転借人は内容を理解した上で合意していると主張しました。ハウスクリーニング費用は固定額であり高額でもなく、クリーニング実施の報告義務は契約上存在しないとして、Xの請求を全て争いました。
Xは消費者契約法第10条を根拠に特約の無効を主張しましたが、民法第621条の趣旨との関係でどのように判断されるかが注目されました。なお、同様の争点を扱った先例として、令和2年9月23日判決(RETIO123-118)でもハウスクリーニング特約を有効とした判例があります。



消費者契約法第10条で争う場合、特約が消費者の利益を「一方的に」害するかどうかが判断のポイントになります。
(民法第1条第2項)
権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
出典:民法 第1条第2項(e-Gov法令検索)
退去費用に影響する原状回復の耐用年数



クロス・カーペット・クッションフロア等の耐用年数は6年です。要は入居期間が6年以上であれば、原状回復費用は発生しない(0円)ということになります。
- 上記の耐用年数はクロス・畳等の主要内装材に適用されるものです。設備機器については別途法定耐用年数が適用されます。
ハウスクリーニング費用は原状回復費用の一部として議論されることがありますが、民法第621条の賃貸借契約における通常損耗の費用負担とは性質が異なります。ハウスクリーニングは建物の管理上の必要性から行われるものであり、入居者の入れ替わり時に清潔な状態を維持するための費用です。お手元の請求書と照らし合わせて、適正な負担額を確認しましょう。
- 上記の計算結果は目安であり、実際の費用は物件の状況・契約内容・損傷状況によって異なります。



ハウスクリーニング費用と通常損耗の原状回復費用は別のものです。特約の有効性はそれぞれ異なる基準で判断されます。
(民法第621条)
賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
出典:民法 第621条(e-Gov法令検索)
判決から学ぶ退去時のポイント


- 判決の結論と理由
- この判例が示す重要な教訓
- 退去費用でトラブルになったら


- ハウスクリーニング特約は金額明記・借主の認識・金額の相当性が揃えば有効
- 貸主にクリーニング実施報告義務は発生しない
- 特約が無効な場合は敷金からの控除を争うことができる
判決の結論と理由


東京地裁は、ハウスクリーニング特約を有効と認め、転借人Xの請求を棄却しました。また、転貸人Yにクリーニング実施状況の報告義務はないとの判断も示しています。
裁判所がハウスクリーニング特約を有効と判断した主要な理由は、ハウスクリーニング費用が固定額(8万9100円+消費税)で契約書に明記されており金額が明確であること、そして本件特約は契約締結時に転借人に十分説明されており転借人は特約の内容を認識した上で合意していることの2点にあります。
また、ハウスクリーニング費用の金額は81㎡のマンションとして相当な範囲内であり高額に過ぎるとはいえないと判断されました。賃貸物件の入居者が入れ替わる際にハウスクリーニングを実施することは社会的に合理性があり、消費者契約法第10条に反し消費者の利益を一方的に害するものとはいえないと認定されました。
報告義務については、民法第622条の2第1項に基づく敷金精算の過程において、クリーニング実施状況を報告する義務を定めた条項は契約書に存在せず、法律上も当然には発生しないと判示されています。クリーニングの実施有無は転貸人の経営判断の範囲内であり、借主に対する報告義務は契約や法律に明文の根拠がない限り認められないとしました。





金額が具体的に明記され、説明を受けて合意した特約は有効と判断されます。契約前によく確認することが大切ですね!
(民法第622条の2第1項)
賃貸人は、敷金(いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう。以下この条において同じ。)を受け取っている場合において、次に掲げるときは、賃借人に対し、その受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務の額を控除した残額を返還しなければならない。
出典:民法 第622条の2第1項(e-Gov法令検索)
この判例が示す重要な教訓


この判例は、ハウスクリーニング特約の有効・無効の判断基準について、借主が知っておくべき重要な教訓を示しています。
特約が有効と認められるための3つの基準とは、①金額が具体的に明記されていること、②借主が内容を認識し合意していること、③金額が相当な範囲内であることです。逆に言えば、金額が不明確、説明が不十分、または金額が高額すぎる場合は特約が無効になる可能性があります。
借主としては、契約前にクリーニング費用の金額が契約書に明示されているかを確認し、物件の広さや間取りに対して相場と比較して妥当かどうかを判断することが重要です。もし金額が不明確であったり、相場を大きく超える高額な設定であれば、特約の有効性を争う余地があります。
民法第400条の善管注意義務の範囲を超えない合理的な金額設定であることも有効性の判断基準となります。特約が無効と判断された場合は、敷金から不当に控除された金額について返還を求めることができます。泣き寝入りせず、専門家への相談を活用しましょう。



逆に言えば、金額が不明確だったり高額すぎたりする場合は、特約が無効になる可能性がありますよ!
(民法第400条)
債権の目的が特定物の引渡しであるときは、債務者は、その引渡しをするまで、契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らして定まる善良な管理者の注意をもって、その物を保存しなければならない。
出典:民法 第400条(e-Gov法令検索)
退去費用でトラブルになったら


ハウスクリーニング特約に疑問を感じたり、敷金から控除された金額に納得がいかない場合は、以下のポイントを確認して対処しましょう。
まず、契約書のクリーニング費用を確認しましょう。具体的な金額が明記されているか、口頭での説明のみではないかをチェックし、物件の広さに対してクリーニング費用が高額すぎる場合は減額交渉の余地があります。
次に、契約時の説明内容を確認しましょう。重要事項説明書にクリーニング費用が記載されていたかを確認し、説明が不十分であったり金額の妥当性に疑問がある場合は、特約の有効性に異議を申し立てることができます。


特約が無効であれば、敷金から控除されたクリーニング費用は不当利得として返還を求めることができます。話し合いで解決しない場合は、少額訴訟や消費生活センターへの無料相談を活用しましょう。



クリーニング特約が有効であっても、それ以外の通常損耗の費用まで請求されている場合は、分けて考える必要があります。困ったら迷わず専門家に相談しましょう!
(民法第703条)
法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。
出典:民法 第703条(e-Gov法令検索)
よくある質問
まとめ
この判決は、ハウスクリーニング特約が具体的な金額を明記し借主が認識して合意していれば有効と判断されることを示した重要な先例です。
ハウスクリーニング特約の有効・無効を判断する際は、金額の明記・借主の認識・金額の相当性の3つの基準を確認することが大切です。
この記事のポイントを振り返ります。
- 契約書に具体的な金額が明記されたハウスクリーニング特約は有効と判断された
- 貸主にはクリーニング実施状況を借主に報告する義務はない
- 特約の有効性は金額の明記・借主の認識・金額の相当性で判断される
- 金額が不明確や高額すぎる場合は特約が無効になる可能性がある
- 通常損耗の費用とクリーニング費用は分けて考える必要がある


- 敷金ドットコムは、情報提供を目的としたサイトです。行政書士が記事の監修および執筆を行っておりますが、根本的な問題やトラブルの解決を目的としたものではありません。トラブルの解決については、弁護士または認定司法書士にご相談ください。











とは?賃貸退去時の借主の責任範囲を解説_1772722420-300x169.jpg)