
敷引特約と更新料特約が有効と判断された判例から学ぶ特約の成立条件を解説
賃貸物件の敷引特約や更新料特約は、金額が賃料と比較して高額でなく、契約書に明確に記載されていれば有効と判断されるケースがあります。
本記事では、東京地裁平成24年8月8日判決(RETIO No.91-084)を詳しく解説します。この判例では、借主が敷引特約と更新料特約の無効を主張したものの、裁判所はいずれも有効であると判断しました。
敷引特約や更新料の仕組みと有効性の判断基準を正しく理解するために、ぜひ最後までお読みください。
裁判所は最高裁判例の基準を適用し、敷引金が賃料の約2か月分にとどまることを根拠に、敷引特約および更新料特約はいずれも有効であるとの判断を示しました。

監修者
1982年にサレジオ学院高校を卒業後、中央大学法学部法律学科に進学し1987年に卒業。法曹界を志し、様々な社会経験を経た後、2016年に行政書士試験に合格。2017年4月に「綜合法務事務所君悦」を開業。法律知識と実務経験を活かし、国際業務を中心に寄り添ったサービスを提供している。
日本行政書士会連合会 神奈川県行政書士会所属
登録番号 第17090472号
事件の概要と判決のポイント

- 事案の背景と契約内容
- 争点と当事者の主張
- 退去費用に影響する原状回復の耐用年数

事業用賃貸物件の敷引特約と更新料特約の有効性が争われた事案です。
東京地裁は最高裁平成23年の一連の判例を踏まえ、いずれの特約も有効と判断しました。
事案の背景と契約内容

本件は、賃借人Xが賃貸人の地位を承継したYに対し、賃貸借契約に付された敷引特約および更新料特約が無効であるとして、保証金等の返還を求めた事案です。
本件賃貸借契約は、月額賃料約120万円超、保証金1320万円という事業用物件の契約でした。契約書には更新料として新賃料の1か月分相当額を支払う旨の特約が明記されており、契約期間は2年ごとの更新とされていました。
借主Xは約8年2か月にわたり本件建物を事業用として使用しました。この間、2年ごとの契約更新時に更新料の支払いを求められていましたが、借主はこれに異議を唱えました。最終的に、敷引特約により保証金から控除される金額および更新料の支払いについて、民法第90条の公序良俗に反して無効であるとして保証金残金の返還および既払い更新料の返還等を求める訴訟を提起しました。
なお、賃料については契約期間中に複数回の改定が行われています。平成22年1月15日時点の月額賃料は約124万円(消費税込み)、その後平成23年5月19日時点では月額賃料が約136万円(消費税込み)に増額されています。賃料の適正性については、裁判所が鑑定人による定率配分法やスライド法、利回り法による試算結果を総合的に考慮して判断しました。
ゲン事業用物件のケースですが、敷引特約の有効性の判断基準は住宅でも参考になりますよ。
民法第90条:公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。
争点と当事者の主張


本件の争点は大きく2つあります。第一に敷引特約の有効性、第二に更新料特約の有効性です。
借主は、敷引特約は保証金の大部分を返還しない不合理な条項であり、民法第90条の公序良俗に反して無効であると主張しました。また、更新料特約も根拠が不明確であり、支払い義務はないとして、保証金残金の返還および既払い更新料の返還を求めました。
これに対し貸主は、敷引金の額は賃料約2か月分相当にとどまるため高額とはいえないと反論しました。更新料特約についても契約書に一義的かつ明確に記載されており、借主は合意の上で契約を締結していると主張しました。
裁判所は、最高裁平成23年3月24日判決(敷引特約)、同年7月12日判決および同年7月15日判決(更新料)等の先例を踏まえ、これらの特約の有効性について判断を下しました。特に最高裁が示した「月額賃料に対する敷引金の倍率」という基準が重要なポイントとなっています。



敷引金が賃料の何か月分に相当するかが、有効性を判断する重要な基準になります。
民法第601条:賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずる。
退去費用に影響する原状回復の耐用年数



クロス・カーペット・クッションフロア等の耐用年数は6年です。要は入居期間が6年以上であれば、原状回復費用は発生しない(0円)ということになります。
敷引特約の有効性を検討する際にも、原状回復費用の算定基準は重要な参考指標となります。敷引金は原状回復費用とは異なる性質を持ちますが、退去時の費用負担全体を把握するためには耐用年数の知識が欠かせません。民法第621条では、通常の使用による損耗や経年変化については借主に原状回復義務がないことが明記されています。
敷引金は実際の損耗の有無にかかわらず契約時に合意された額が控除されますが、原状回復費用については耐用年数に基づいて算定されます。両者の性質の違いを理解しておくことが重要です。



敷引金は原状回復費用とは別の性質を持つお金です。耐用年数の考え方と合わせて理解しておきましょう。
民法第621条:賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に回復する義務を負う。
判決から学ぶ退去時のポイント


- 判決の結論と理由
- この判例が示す重要な教訓
- 退去費用でトラブルになったら


敷引特約・更新料特約の有効性の判断基準を知れば、退去時の費用負担を正確に把握できます。
ここでは判決の結論とその理由、重要な教訓、そして実際にトラブルになったときの具体的な対処法を解説します。
判決の結論と理由


東京地裁は、借主Xの請求を一部認容・一部棄却し、敷引特約および更新料特約はいずれも有効であるとの判断を示しました。
敷引特約について、裁判所は敷引金の額が賃料約2か月分相当にとどまり高額に過ぎるとはいえないと判断しました。民法第601条に基づく賃貸借契約の対価としての合理性が認められ、契約書に敷引条項が明確に記載されており借主はこれを認識した上で契約を締結していることから、民法第90条の公序良俗違反には該当しないとされました。
更新料特約についても、契約書に新賃料の1か月分相当額と一義的かつ明確に記載されており、民法第1条第2項の信義則に反するものではないと判断されました。裁判所は最高裁平成23年7月15日判決を引用し、更新料の支払いを約する条項が明確で、金額が賃料と比較して高額に過ぎなければ有効であるとの基準を適用しています。
ただし、裁判所は賃料の額については鑑定結果等を踏まえて一部の主張を認め、民法第622条の2第1項が定める保証金の返還義務の範囲について、適正な賃料額に基づく精算を命じました。





敷引金が賃料の2か月分程度であれば有効と判断されやすいため、契約前に確認しておくことが大切です。
民法第1条第2項:権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
この判例が示す重要な教訓


この判例は、敷引特約と更新料特約の有効性について、借主が知っておくべき重要な判断基準を示しています。敷引金の額が賃料の何か月分に相当するかが有効性を左右し、契約書への明確な記載と賃貸借全体の対価としての合理性が求められます。
民法第415条第1項に基づく債務不履行による損害賠償請求の場合とは異なり、敷引金は契約時に合意された定額の控除です。そのため、実際の原状回復費用の多寡にかかわらず保証金から差し引かれることになります。借主としては、契約前に敷引金の額が賃料の何か月分に相当するかを必ず確認しておくことが重要です。
また、民法第703条の不当利得返還請求は、特約が無効と判断された場合にのみ認められます。本件のように特約が有効と判断されれば、敷引金の返還を求めることはできません。契約締結前に特約の内容を十分に確認し、敷引金の額が適正かどうかを慎重に検討することが求められます。
敷引金が賃料の3.5倍を超えるような高額な場合は無効となる可能性があり、契約前に必ず確認が必要です。特に保証金の総額に対する敷引金の割合だけでなく、月額賃料との比較で何か月分に相当するかを確認しておきましょう。



逆に言えば、敷引金が賃料の3.5倍を超えるような場合は無効になる可能性がありますよ!
民法第703条:法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。
退去費用でトラブルになったら


敷引特約や更新料特約に疑問を感じた場合は、一人で判断せず専門家に相談することが大切です。
まず敷引金の額を確認しましょう。賃料の3.5倍を超える敷引金は無効と判断される可能性があります(最高裁H23.3.24判決)。また、契約書の記載内容を精査し、特約が不明確な場合は無効主張の余地があります。
居住用か事業用かの区別も重要です。居住用の場合は消費者契約法第10条による保護も受けられます。更新料については賃料の1〜2か月分程度であれば有効とされる傾向にあります。


消費者センターや弁護士への相談を積極的に活用することで、不当な費用請求に適切に対処できます。交渉で解決しない場合は少額訴訟制度の利用も検討しましょう。



特約の有効・無効は個別の事情によって判断が分かれます。迷ったら早めに専門家に相談しましょう!
民法第622条の2第1項:賃貸人は、敷金(いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう。)を受け取っている場合において、賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたときは、賃借人に対し、その受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務の額を控除した残額を返還しなければならない。
よくある質問
まとめ
この判決は、敷引特約と更新料特約が賃料に対して高額でなく契約書に明確に記載されていれば有効と判断されることを示した重要な先例です。
敷引特約や更新料特約の有効性は個別の事情により判断が分かれるため、契約前に内容をしっかり確認することが大切です。
この記事のポイントを振り返ります。
- 敷引金が賃料の約2か月分にとどまる場合は敷引特約が有効と判断される
- 更新料特約も契約書に一義的かつ明確に記載されていれば有効
- 敷引金が賃料の3.5倍を超える場合は無効となる可能性がある
- 居住用賃貸借では消費者契約法による借主保護が適用される
- 特約の有効性に疑問がある場合は契約前に専門家に相談することが重要


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