
使用目的を変更して承継した賃貸借契約の原状回復基準が争われた判例を解説
住居用として契約した物件を事務所として使用していた場合、退去時の原状回復費用はどのような基準で計算されるのでしょうか。
本記事で紹介するのは、東京地方裁判所が平成25年7月16日に下した判決(RETIO 95-084)です。
この裁判では、住居用の賃貸借契約を事務所として使用目的を変更して承継した賃借人が、敷金返還と修繕工事費用の立替金を請求しました。
裁判所は契約条項の変更が行われていないことを理由に住居用の原状回復基準を適用し、賃借人の請求を認容しました。

監修者
1982年にサレジオ学院高校を卒業後、中央大学法学部法律学科に進学し1987年に卒業。法曹界を志し、様々な社会経験を経た後、2016年に行政書士試験に合格。2017年4月に「綜合法務事務所君悦」を開業。法律知識と実務経験を活かし、国際業務を中心に寄り添ったサービスを提供している。
日本行政書士会連合会 神奈川県行政書士会所属
登録番号 第17090472号
東京地裁が住居用の原状回復基準を事務所使用にも適用した根拠

- 住居用契約を事務所に変更して承継した賃貸借契約の経緯
- 裁判所は契約条項が変更されていないため住居用基準で判断した
- クロスの耐用年数6年と残存価値の計算方法を把握しておくことが重要になる

事務所として使っていたのだから原状回復費用も高くなると言われた経験はないでしょうか。
ここでは、契約承継の経緯と裁判所が住居用基準を適用した判断、そして耐用年数の計算を確認します。
住居用契約を事務所に変更して承継した賃貸借契約の経緯

まず、この裁判の背景として、本物件はもともと住居用として賃貸されていましたが、その後使用目的が事務所に変更され、賃借人が契約を承継しました。
賃貸借契約の終了に際し、賃借人は敷金の返還と入居中に立て替えた修繕工事費用の支払いを賃貸人に請求しました。
これに対し賃貸人は、事務所として使用していたため通常損耗も含めた原状回復費用を借主が全額負担すべきと主張し、敷金返還を拒みました。
賃貸借契約において使用目的の変更がある場合、原状回復の範囲をどのように判断するかが争点となりました。
ゲン契約書の使用目的と実際の使用方法が異なる場合でも、契約条項の内容が基準になります。
民法第601条:賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずる。
裁判所は契約条項が変更されていないため住居用基準で判断した


次に、裁判所がどのような判断を下したかを確認します。
裁判所は、使用目的が住居から事務所に変更されたものの、賃貸借契約の条項自体は変更されていない点を重視しました。
契約条項の変更がない以上は住居用の原状回復基準が適用されると判断し、賃貸人の主張する通常損耗を含む全額負担の請求を退けました。
敷金から賃借人が負担すべき原状回復費用を控除した残額の返還と、入居中に賃借人が立て替えた修繕工事費用および遅延損害金の支払いが認容されました。



実際の使用方法ではなく、契約書の条項に基づいて原状回復が判断された点が重要です。
民法第621条:賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に回復する義務を負う。
クロスの耐用年数6年と残存価値の計算方法を把握しておくことが重要になる



クロス・カーペット・クッションフロア等の耐用年数は6年です。要は入居期間が6年以上であれば、原状回復費用は発生しない(0円)ということになります。
さらに、住居用の原状回復基準が適用される場合、国土交通省のガイドラインに基づいた耐用年数の計算が重要になります。
クロス(壁紙)の耐用年数は6年と定められており、入居3年目で残存価値は約50%、6年目以降はほぼ1円となるため、入居期間が長いほど借主の負担額は少なくなります。
事務所として使用していても契約条項が住居用であれば住居用のガイドラインが適用される可能性があり、退去費用の計算方法を確認しておくことが大切です。



入居年数ごとに借主が負担すべき残存価値を計算ツールで確認できます。
民法第622条の2第1項:賃貸人は、敷金を受け取っている場合において、賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたときは、賃借人に対し、その受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務の額を控除した残額を返還しなければならない。
この判決から学ぶ使用目的変更と退去費用への対処法


- 修繕工事費用の立替金返還が認められた法的根拠を理解する
- 使用目的変更による原状回復基準の違いを確認する
- 契約承継時に原状回復の範囲を明確に取り決めておく


入居中に立て替えた修繕費用は返してもらえるのだろうかと不安に感じる方もいるでしょう。
ここでは、修繕費用立替金の法的根拠と使用目的変更の影響、そして契約承継時の注意点を解説します。
修繕工事費用の立替金返還が認められた法的根拠を理解する


まず、修繕工事費用の立替金返還が認められた理由を整理します。
賃貸物件の修繕は原則として賃貸人の義務であり、賃借人が賃貸人に代わって必要な修繕を行った場合は、その費用の償還を請求できます。
入居中に立て替えた修繕工事費用は賃貸人に対する費用償還請求権として認められるため、退去時の精算で返還を求めることが可能です。
この判決では遅延損害金もあわせて認容されており、賃貸人が費用償還を不当に拒んだ場合のリスクが示されています。





修繕費用を立て替えた場合は、領収書等の証拠を保管しておくことが大切です。
民法第608条第1項:賃借人は、賃借物について賃貸人の負担に属する必要費を支出したときは、賃貸人に対し、直ちにその償還を請求することができる。
使用目的変更による原状回復基準の違いを確認する


加えて、住居用と事務所用では原状回復の基準が異なる点を理解しておく必要があります。
国土交通省のガイドラインは主に住居用の賃貸借契約を対象としており、事業用物件には直接適用されません。
事業用契約では通常損耗も含めた原状回復が求められるケースがあるため、住居用と比べて借主の負担が大きくなる傾向があります。
この判決のように契約条項の変更がなされていなければ住居用基準が適用される場合がありますが、個々の契約内容によって判断が異なります。



住居用と事業用で原状回復の基準が大きく異なることを覚えておきましょう。
民法第1条第2項:権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
契約承継時に原状回復の範囲を明確に取り決めておく


最後に、契約を承継する際の注意点と具体的な対処法を解説します。
使用目的を変更して契約を承継する場合は、原状回復の範囲と費用負担について書面で明確に取り決めておくことが重要です。
契約条項に原状回復の範囲が具体的に記載されているか確認しておくことで、退去時のトラブルを未然に防ぐことができます。
原状回復費用に疑問がある場合は、国民生活センターや弁護士に相談し、契約条項に基づいた正当な費用範囲を確認しましょう。





契約承継時に原状回復の条件を書面で確認しておけば、退去時の争いを防げます。
民法第400条:債権の目的が特定物の引渡しであるときは、債務者は、その引渡しをするまで、契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らして定まる善良な管理者の注意をもって、その物を保存しなければならない。
よくある質問
まとめ
この判決は、契約条項の変更がない場合は住居用の原状回復基準が適用されることを示した事例です。
使用目的を変更して契約を承継する場合は、退去時の原状回復の範囲と費用負担を書面で確認しておくことが重要です。
この記事のポイントを振り返ります。
- 契約条項の変更がなければ住居用の原状回復基準が適用される
- 修繕工事費用の立替金は費用償還請求権に基づき返還を求められる
- 事業用物件では通常損耗も借主負担になるケースが多い
- 契約承継時に原状回復の範囲を書面で明確にしておくことが重要
- 使用目的変更の有無と契約条項の内容が退去費用の計算基準を左右する


- 敷金ドットコムは、情報提供を目的としたサイトです。行政書士が記事の監修および執筆を行っておりますが、根本的な問題やトラブルの解決を目的としたものではありません。トラブルの解決については、弁護士または認定司法書士にご相談ください。











とは?賃貸退去時の借主の責任範囲を解説_1772722420-300x169.jpg)