賃貸退去立会い時の注意点 トラブルや気をつけることを事前に確認

賃貸住宅の退去時に行われる立会い検査は、敷金(入居時に預ける保証金)返還や原状回復(元の状態に戻すこと)費用の負担を決定する重要な手続きです。
落ち着いて対応すれば問題ありません。まずは基本的な確認から始めましょう。
しかし、多くの入居者が十分な準備をせずに立会いに臨み、後日トラブルに発展するケースが少なくありません。
国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」によると、賃貸住宅に関する相談の約4割が敷金・原状回復に関するものとなっています。
適切な知識と準備により、不当な費用請求を避け、正当な敷金返還を受けることができます。
本記事では、退去立会い(退去時の部屋の確認作業)時に特に注意すべきポイントを法的根拠とともに詳しく解説し、トラブルを未然に防ぐための実践的な対策をご紹介します。

監修者
1982年にサレジオ学院高校を卒業後、中央大学法学部法律学科に進学し1987年に卒業。法曹界を志し、様々な社会経験を経た後、2016年に行政書士試験に合格。2017年4月に「綜合法務事務所君悦」を開業。法律知識と実務経験を活かし、国際業務を中心に寄り添ったサービスを提供している。
日本行政書士会連合会 神奈川県行政書士会所属
登録番号 第17090472号
退去立会いの基本的な理解とその法的根拠
退去立会いにおける責任の所在は、「通常の使用による経年劣化(時間が経って自然に古くなること)」なのか「入居者の故意・過失による損傷」なのかを双方が立ち会って確認し、適正な原状回復範囲を判断する重要な手続きです。
立会い時の記録や証拠保全が後のトラブル防止の鍵となります。
民法第606条および第621条では、賃借人には「善管注意義務(注意深く大切に扱う義務)」があり、通常の注意をもって物件を使用・管理する義務があるとされています。
また、賃貸人には修繕義務があり、立会いによる適正な損傷範囲の特定が双方の権利保護につながります。

- 民法第606条(賃貸人による修繕等)
賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人の責に帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない。
- 民法第621条(賃借物の返還等)
賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」では、立会い時の証拠保全の重要性が強調されており、損傷箇所の写真撮影や状況記録が推奨されています。
壁紙の耐用年数(使える期間の目安)6年、カーペットの耐用年数6年など具体的な基準に基づき、立会い時に損傷の原因と経過年数を考慮した負担割合を双方で確認することが重要です。
畳表(畳の表面のゴザ部分)については耐用年数を考慮しないため、故意・過失による損傷は全額入居者負担となることも立会い時に明確にする必要があります。
つまり、退去立会い時の注意点として、準備段階での清掃、修繕箇所の詳細な記録、双方立会いでの損傷原因の特定が適正な原状回復費用の算定と後のトラブル防止に不可欠です。
退去立会い時の注意点

退去立会いの準備
退去立会いは敷金返還額を決定する重要な手続きです。
事前の準備を怠ると、不当な費用請求を受けるリスクがあります。
立会いの成功は、入居時の状況と現在の状況を適切に比較できるかどうかにかかっています。
準備として最も重要なのは、入居時に撮影した写真や書類の整理です。賃貸借契約書、入居時のチェックリスト、写真データを一箇所にまとめておきましょう。
また、修繕履歴や管理会社への連絡記録も用意します。立会い当日は、デジタルカメラやスマートフォンを必ず持参し、指摘された箇所を記録できるよう準備します。
さらに、筆記用具とメモ帳、場合によってはメジャーも用意しておくと、詳細な記録が可能になります。
家族や友人に同席してもらうことで、客観的な証人を確保することも有効な対策です。
退去立会いまでに部屋の清掃
通常の清掃を行うことで、借主が負担すべき費用を最小限に抑えることができます。
ただし、過度な清掃は不要で、日常的な掃除レベルで十分です。
重要なのは、明らかな汚れや破損を放置しないことです。
重点的に清掃すべき箇所は、キッチンの油汚れ、浴室の水垢やカビ、トイレの汚れ、床の掃除機がけとモップ掛けです。壁紙の軽微な汚れは中性洗剤で拭き取り、窓ガラスや照明器具も清拭します。
ただし、経年劣化による変色や小さな傷は無理に修復する必要はありません。
また、備え付けの設備や家具も元の位置に戻し、取扱説明書がある場合は準備しておきます。
清掃後は、作業前後の写真を撮影して、適切な管理を行っていた証拠として保管することが重要です。
退去立会いで指摘された修繕箇所の記録
立会い時に指摘された修繕箇所については、詳細な記録を残すことが後々のトラブル防止につながります。
口約束ではなく、書面での確認が重要で、曖昧な表現は避けて具体的に記録する必要があります。
指摘された箇所ごとに、損傷の状況、原因、修繕の必要性、費用負担者を明確に記録します。
写真撮影は必須で、全体像と細部の両方を撮影し、日付と時刻が記録されるよう設定します。
管理会社や大家の説明に疑問があれば、その場で質問し、納得できない場合は即座に同意せず、後日回答をもらう旨を伝えます。
修繕費用の見積もりは複数業者から取得する権利があることも確認しておきましょう。
立会い終了時には、記録内容を双方で確認し、可能であれば署名付きの書面を作成します。
退去立会いのポイントと賃貸借契約書に記載のある注意すべき条項例
賃貸借契約書には、退去時の費用負担に関する重要な条項が記載されています。
これらの条項を事前に確認し、立会い時に適切に対応することで、不当な費用請求を避けることができます。

条項例
- ハウスクリーニング費用借主負担に関する条項
借主は、賃貸借契約終了時において、室内全体のハウスクリーニング費用を負担するものとする。清掃は貸主が指定する専門業者により実施し、その費用は敷金から差し引くものとする。ただし、借主が退去前に同等の清掃を実施した場合であっても、本条項の適用を妨げるものではない。 - 畳・襖交換費用に関する条項
借主は、賃貸借期間中の畳の表替え及び畳替え、襖・障子の張替え費用を負担するものとする。交換の実施については貸主が判断し、借主の使用期間及び使用状況に関わらず、退去時に必要と認められる場合は借主がその費用を負担する。 - 鍵交換費用に関する条項
借主は、入居時及び退去時における玄関錠・室内錠の鍵交換費用を負担するものとする。防犯上の理由により、前入居者が使用していた鍵は使用できないため、入居時に新しい鍵への交換を実施し、退去時には次の入居者のために再度交換を行うものとする。 - 喫煙による損傷修繕費用に関する条項
借主が室内で喫煙した場合に生じる壁面・天井のヤニ汚れ、臭いの除去、クロス・カーテンの交換については、通常損耗を超える損傷として借主が修繕費用を負担するものとする。喫煙の事実が確認された場合は、全室の内装復旧を要することがある。 - 通常損耗超過損傷の判定基準に関する条項
本契約における通常の使用による損耗の範囲は、国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」に準拠するものとする。ただし、借主の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用方法に反する使用による損傷については、借主が修繕費用を負担するものとし、その判定は貸主が行う。
特に注意すべき条項として、「ハウスクリーニング(専門業者による室内清掃)費用の借主負担」「畳・襖の交換費用」「鍵の交換費用」「喫煙による汚れ・臭いの修繕費用」があります。
これらの特約が有効かどうかは、国土交通省のガイドラインと照らし合わせて判断する必要があります。
また、「通常損耗(普通に使っていてできる傷み)を超える損傷」という表現については、具体的な基準を確認することが重要です。
敷金の返還時期や返還方法、連帯保証人(借主と同じ責任を負う保証人)への連絡義務なども重要な条項です。
契約書の内容と異なる請求を受けた場合は、その場で契約書を確認し、根拠を求めることで不当な費用負担を回避できます。
まとめ

退去立会いは敷金返還と原状回復費用の負担を決定する重要な手続きであり、十分な準備と正しい知識が不可欠です。
通常使用による損耗は入居者の負担範囲外であること、修繕費用は適正価格で算定されるべきこと、立会い時には詳細な記録を残すことが重要なポイントとなります。
契約書の内容を事前に確認し、疑問点は遠慮なく質問する姿勢を保ちましょう。
トラブルが発生した場合は、一人で抱え込まず、消費生活センターや専門家への相談を積極的に活用することで、適切な解決を図ることができます。
- 入居時の写真や書類、修繕履歴を事前に整理し、立会い時に比較検討できるよう準備する
- 日常的な清掃レベルで十分で、過度な清掃や修繕は不要である
- 指摘された修繕箇所は写真撮影と詳細な記録を行い、書面での確認を求める
- 賃貸借契約書の条項を事前確認し、不当な費用請求に対しては根拠を求める
- 疑問点は立会い時に必ず質問し、納得できない場合は即座に同意しない
